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残念ながら、僕と兄上は、『シュヴァリエ』に入ることが出来ない。必須条件である、『殺生石』に適正が無いからだ。
でも。でも。もし兄上が本当にゼロ・オールドセイルになってしまえば・・・っ!!
部屋に戻って、アンティーク調の絨毯の上で、親指を噛みながら、必死で考えた。
どうする。どうする。どうする。
兄上がゼロ・オールドセイルに?
もし本当になってしまったら、僕はどうなる?
次男である僕は、『銀狼』に移されることになる。軍隊よりも悲惨で、常軌を逸した訓練を受け、ただ人を殺すだけの暗殺マシーンにされ、あの兄の手駒とならないといけないのか。それか、領地の田舎の教会に追い出され、牧師となるのか。
継承権が与えられない次男は、たった一人で生きて行かないといけなくなる。全部を失って、腐り落ちていくんだ。
この僕が!!そんなこと、あってたまるものか!!
────兄上・・・ウィリアム兄上・・・。
同じ母から生まれた、血を分けた兄・・・父上の跡継ぎ・・・。
だが、兄上には、父上のような才覚は無い。剣技も、勉学も、何一つ・・・・・・だけど、それに気付かず、ただ長男であることを鼻にかけて、傲慢にちらつかせているだけで、虎の威を借りる狐にしかない。
それに比べて、僕には才能がある。何でも、兄の一歩先を歩いている。
フェンシングだって、ピアノだって、ダンスだって、帝王学でさえも、兄は弟(僕)の足元にも及ばないんだ。
兄上はそれが気に入らずに、僕に苛ついて、鼻に吹っ掛けてくるだけ。まさに、愚者のやりそうなことだ。
僕は、兄上が嫌いだった。何にも出来ないくせして、僕を抑えつけようとしてくる兄上が、この世で最も愚かで醜悪なものにしか見えなかった。
兄と目が合っただけでも、腸が煮えくり返る。今まで、僕の才能に嫉妬した兄上がしてきた、数々の嫌がらせや暴力による記憶が、頭の中にこびりついてるからだ。
どうせ、何一つ僕に掠りもしないくせして。みっともない。こんな奴が、将来の“ゼロ・オールドセイル”など、あってはならない。
兄上なんかより、僕の方が何百倍も才能がある。“ゼロ・オールドセイル”の称号は、僕に相応しい。
そうだ。絶対そうだ。兄上なんかよりも、僕がなればいいんだ!!ゼロ・オールドセイルに!!
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