とある名家の兄弟達

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******  この私、ウィリアム・ジェイムズ・オールドセイルの家族は、以下の通りである。  父、ゼロ・オールドセイル。オールドセイル家現当主。嫡子。また、『シュヴァリエ・ゼロ』でもあり、二つ名を『影の騎士』。  母は、侯爵家のご令嬢。その昔、曾祖父に見初められて、当時の許嫁と引き裂かれて、このオールドセイル家に嫁入りした。嫁入りする前に、第一子である私を身ごもり、婚儀を上げて十月十日後に、出産。その後直ぐに、第二子を出産するが、産後の状態が著しく悪化して、私と弟がまだ幼い内に息を引き取った。  今の父の妻は、第二夫人である。元は、この家の女中であったが、父が当主を引き継ぐ前から肉体関係を持っていたらしく。母の死直後に、正式に父の後妻となった。それから、第三子たる私の異母兄弟を産み落としてくれた。  父の子は、私、弟のヴィンセント、三男のアルフレッドである。  私と弟は、乳母の乳によって成長した。乳母は身分の低い、子爵家の次女であったが、未婚でありがながらも子を産むなど、曰くつきの女性だった。だからこそ、我が家の乳母に選ばれたのだ。  この乳母に、私と弟は母性を見た。乳母は、未婚による出産を経験して、逞しい人格者でありながら、母の慈愛に溢れていた。  正しきは善、不正は悪、その言葉を骨の髄まで叩き込まれながら、私と弟は幼少期を経験した。彼女は、私達を実の息子のように愛してくれた。ご主人様のご長男だからとか、ご次男だとかも一切関係なく。平等に愛してくれたのだ。一番古い記憶をたどるとすると、その膝を巡って、弟と掴み合いの喧嘩になってしまい、いがみ合う私達を厳しく叱りつけた後に、その豊満な胸の中に二人いっぺんに抱えて、キスを施してくれたことだ。  その乳母はもういない。後妻によって追い出され、男爵家に嫁入りしていったからだ。  私と弟は、後妻を恨んだ。元より、後妻は私達を目の仇にしていた。自分が生んだ息子を当主にそえるには、私達の存在が疎ましかったからだというのが、明確な理由だ。  後妻は非常に狡猾な女だった。女の性を、捻じ曲げて強めてしまったように、やることなすこと、全てが嫌らしいものだった。  使用人の分際で、父の妻にのし上がったのもそうだが、あの女は、私達から二度も、母を奪ったのだ。
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