とある名家の兄弟達

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 お嬢様育ちで、たおやかで、世間知らずな産みの母を精神的にも肉体的にも追い込んだのは、後妻だった。強かで、しっかり者で、熱意を秘めた育ての母を追い出して、二度離婚された女好きの厭らしい老人に売ったのも、後妻であった。  私は、後妻を到底許せなかった。絶対に、弟共々この屋敷から追い出して、母達が味わった以上の生き地獄を見せ付けてやると、誓った。  後妻の胎から生まれたアルフレッド・・・奴も、油断してはならない。  家人達には上手く隠しているだろうが、その奥に潜んでいたあの邪悪な狡猾さ。正しく、あの悪魔の女の血を引いているのもある。あんなのと半分血がつながっているのだと想像すると、反吐が出る程気分が悪い。  いい子ちゃんの仮面をかぶり、度々私の元にやって来ては、稽古をつけてくれだの、この本の意味を教えてくれだのと、末っ子らしい愛嬌を振り撒いてくるが、その腹の内を当の昔に看破している。  お前が、今通っている寄宿舎の生徒と教師を牛耳って、王様気分で思うが儘に操っていることも私は知っているし。生徒の中からいじめの対象を選んで、見るにも耐えられない残酷過ぎる手法を持って、何人も自殺に追い込ませたことも、私は知っている。  あの二人こそ、害虫だ。我がオールドセイル家に寄生する、汚らわしく、醜く、穢れた血だ。顔を合わせるのも、思い出すのも吐き気がして仕方ない。  早く。早く、父上に認められなければ。父上に認めてもらい、正式な跡継ぎとなり、早くあの穢れた血どもを追い出さねばならない。  幸いなことに、私には才能がある。このオールドセイル家を継ぐには相応し過ぎる程の、天より授けられた才覚が、私には秘められていた。  やれば何でも完璧に成し遂げられた。成し遂げられなかったことなど、今まで一度たりとも無かったし、完膚なきまでに敗北したことも体験したことが無かった。  テストだっていつも満点で、トップを外したこともない。人望もある。顔も、女に持て囃されるぐらい整えられているという自覚もある。私は生まれた瞬間から、ありとあらゆる才能に愛されていた。  敵は家の外にはいない。家の中・・・後妻とアルフレッドだけ。  私はそう思っていた。だが、後に、敵はあの親子だけじゃないと、気付かされた。  同じ母から生まれた、私のもう一人の弟。ヴィンセントである。
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