とある名家の兄弟達

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 一年後に生まれたヴィンセントは、一年遅れて教育を始めたのだが、めきめきと成長するようになっていった。  まるでスポンジの如く、教えられた知識と、与えられた技能を全て吸収していって、それを完全に我が物としてきた。  神童は、私だけでは無かったのだ。  そうなると、段々と不穏な噂が流れるようになっていた。将来、ヴィンセントが父の跡継ぎになるのではないか、という根も葉もない噂であった。  直ぐ様緘口令を引いて、そんな邪推を口にする使用人を解雇していった。  だが、もう遅かった。ヴィンセントはいつの間にか、私の敵となっていた。どこかで噂を耳にしたのだろう。浅ましい欲望が、あれをひどく捻じ曲げてしまったようだ。  あれほどきらきらと輝いた瞳は蔑視となり、兄上と舌足らずな声を出していた口からは、敵意の塊を吐き出すようになっていた。  愛を持って許そうとはしたが、許しがたい非難の数々に、憎しみだけが増える一方だ。もうどうしようもならないぐらいに、あれは私の誇りを何度も傷つけてきた。  ならばもういい。あれはもう、弟ではない。弟は死んだのだ。あれはただの他人だ。  私の味方は私だけ。自身の力だけが頼りだ。私は必ずや、ゼロ・オールドセイルの名を引き継いでみせよう。  引き継いだ後には、ヴィンセントを『銀狼』に据えてやる。洗脳し、一生私に逆らえない様にしてやり、ぼろ雑巾になるまでこき使ってやろう。  この屋敷の中で、誰が一番偉いのか、その身を持って味合わせてやる。  ああ。顔がにやけてしまいそうだ。父上の手前、我慢しなければ。  父上。父上。偉大なるゼロ・オールドセイル。『シュヴァリエ・ゼロ』よ。  私ももう十五になりました。父上が譲り受けた時と同じ齢でございます。早く、その名を私に与えてください。  私ならば、今の権威をより豊かに、確固たるものにしてご覧に見せましょう。私には、それほどの才能があるのです。全て、貴方から頂いたものでございます。  毎日、屋敷の敷地内に建てられていた教会に祈りを捧げていた。熱心な信教者と見られた方が、外聞が良いのもあってだ。  ある日、私の祈りが届いた。 「お坊ちゃま。ご主人様より、伝言を承っております・・・夕食の後、書斎に来るようにとの、ことでございます」  帝王学の予習をしていた時に、爺やから受け取った。
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