とある名家の兄弟達

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 心が跳ねあがった。ようやく、この時が来たんだ!  やった!やった!父上が私を認めてくれたんだ!きっとそうに違いない!  夕食の席に座る父の顔を見た瞬間、高揚した熱が私の全身に駆け巡った。まるで、初恋した乙女になった気分だ。  父上。今や、全ての権力の上に立っておられる、誰よりも偉大で強大な御方。この国では、貴方の右に出るものはいないことでしょう。  その貴方の眼に私が叶った。私はいかに、幸福者なのだろう。貴方の息子であることに、誇りを感じていない筈があるでしょうか。いや、そんなことはございません。  このオールドセイルと共にあるのが私の願い。私の人生。私の全てでございます。ええ。未来永劫変わることはありません。  ヴィンセント。ヴィンセント。愚か者め。  お前なんぞが、オールドセイルを背負える筈が無い、お前なんかに。それが天より与えられた才覚の違いだ。  お前はただ、人より器用にできるだけに過ぎない。どこに才能があると言えるのか。所詮お前など、秀才止まり。真の天才には敵わないのさ。  後妻を始末した後は、お前の番だ。お前を絶対に屈服させてやる。結婚もさせない。家からも出させない。犬畜生に成り果てるがいいさ。  気分が高まり過ぎて、舞い上がってしまいそうだ。いけない、いけない。こんなみっともないところを、父上に見せるわけにはいかない。  デザートを終えた後、私は昂ぶった心を宥める為に、一旦、自分の部屋に戻ることにした。  使用人を追い出して、一人になると、部屋の真ん中で祈りを捧げた。  主よ。天の御座におわしられます偉大なる父よ。感謝し申し奉ります。  私はこのオールドセイルの剣となり、盾となり、砦となります。そして、立派に父の跡を引き継いで、より一層の繁栄をもたらしてみせましょう。  父よ。我が父、ウィリアム・オールドセイルよ。貴方は私に、貴方と同じ名前を授けてくれました。ならば、貴方が持つその冠名も、私に与えてください。  我が祈りよ。どうか、父に届き給え・・・・・・。  こんこん。  こんなタイミングで、ドアをノックするのは、一体誰だ。  いや、考えるまでもない。  こちらから応答をする前にドアが開かれた。
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