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「兄上、先程は大変失礼致しました。どうです、仲直りの印に、お茶でもどうですか?」
よくも、そんな口が叩けたものだ。この低能・・・。
このタイミングで来た・・・となると、何か企んでいるに違いない。
愚かな奴め。ワゴンに乗せた茶器にはきっと、毒が盛られているに違いない。騙せるとでも思ったのか。愚弟が。
良いだろう。その勝負乗った。父上の元に行く前に、お前との関係を、ここではっきりと明確にしてやる。
ワゴンを引いたヴィンセントを、部屋の中に通した。
早速、茶器を暖めて、洗練された動作で紅茶を濾し始める。
紅茶は、紳士の嗜みだ。飲むのも大事だが、上手く淹れればそれだけ、その人物の人柄が現れるという。この国では、上流階級の子息でも、紅茶の基礎を入門する風習だ。他の国には無いだろう。
「どうぞ」
私が腰を下ろしていたソファーの手前にある、大理石のテーブルの上に、茶器が置かれた。ヴィンセントが私的に購入したものだと思われる。
「お前は飲まないのか?」
「勿論、頂きますとも」
遅れて自分のも置いて、ヴィンセントは私の反対側のソファーに座った。
「オールドセイル家に乾杯」
「栄光と繁栄に」
称賛の言葉を送りあったが、直ぐには口に着けなかった。
ヴィンセントも、香りを楽しんでいたが、口に着けずにそのままカップをソーサリーに置いた。
「飲まないのか?」
「茶の始めは香りからです。兄上の方こそ、お飲みにならないのですか?もしかして、毒が入っているとでも?」
せせら笑いに近い表情で、ヴィンセントは私を見てきた。
その手に乗るものか。お前の魂胆は解っている。お前は私を殺しに来たんだろう?
その顔・・・気に食わない。
「要件を言ったらどうだ?このまま、僕を父上の所に行かせたくないと、はっきり言ったらどうだ?」
カップの挿し口に指を引っ掛けたまま、中にたっぷりと残った茶を、そのままソーサリーの上にぶちまけてやった。
ヴィンセントは笑ったままだった。私がそうすると、踏んでいたのだろう。最初から。兄弟というのは、本当に、忌々しい。
「そうですね・・・では兄上。弟から貴方にお願いが・・・」
「何だ?」
恐らく、武器はあのワゴンの中に隠されているだろう。丁度、布がカーテンとなって、死角を作っているに違いない。
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