とある名家の兄弟達

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 本当の言葉を混ぜ込みながら、上手く誘導しようというのか。浅はかだ。  そこまでして、私を誘導したいのか。父上から私を遠ざけたいのが、丸見えだ。  私を殺したいのだな。この弟は。  面白い・・・丁度、そろそろ用済みにしたかったところだ。  躾が出来ない狂犬は、牙を剥かれる前に排除するのみ。お前はもう、不必要だ。私からも。この家からも。  私は、ヴィンセントに乗っかることにした。  背中に、こっそりと壁から外しておいた剣を隠しながら。  道は壁に掛けられた蝋燭の灯りのお陰で、視界に困らなかった。  誰かが常に整備しているのか、意外と綺麗にされている。  しかし、奥から微かに、風にまみれて臭うのは、血の臭い。  確かにこの向こうの、闇の世界で、想像するのも絶しがたいものが、繰り広げられてきたのだとろうと、思いつく。  先を行くヴィンセントの背中と、利き手に抱えられた細剣とに、全神経を集中させる。無防備に背中を見せ付けてくるとはいえ、少しでも気を抜けば剣を抜いて、忽ち白刃で襲い掛かってくるだろう。私に何一つ、あと一歩及ばないまでも、その剣の腕前だけは、私は認めているつもりだ。  だが、ヴィンセントは何もしてこない。策略も、策謀も、何もせず。ただひたすら、地下へ降りていくばかりだ。  鼻につく黴と血の臭いが濃くなってきた。だいぶ下に降りたのに、まだ降りるのか。  地下の通路は、途中で枝分かれしていて、まるで迷路に迷い込んだ感覚だ。複雑に入れ込んだ分岐と、薄暗闇、そして密封された空気。長時間いようものなら、精神に障害をきたすことになるだろう。歩くだけでも、かなりの精神力が有するものだと、途中から気付いた。そこまで運動していないのに、額から汗が流れる。気管が狭苦しく感じてきた。  ヴィンセントは・・・・・・涼しい顔をしたままだ。いやきっと、隠しているだけで、あちらも相当気力を消耗していることに違いない。 「どこまで降りるつもりだ?」 「もうちょっとです」  ヴィンセントはそれだけしか答えなかった。だが、一瞬だけ見えた、したり顔を、見逃さなかった。  奴は、一体何をするつもりなのか。私の隙をついて、この地下に一生幽閉させて、餓死させるつもりなのか。それとも、その細剣で私の心臓を一突きして、誰にも見つからない場所に、私の死体を隠すつもりなのか。
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