とある名家の兄弟達

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 考えられる予測は、多岐に渡っていて、それが私の警戒心を強めることとなった。  私はヴィンセントから、目を離せないでいた。離せなかったのだ。この、羊の皮を被った狼がいつ牙を剥いてくるのか、そのタイミングを圧し計らっていたのだ。  直ぐ様命を狙おうものなら、返り討ちにして、この闇の中に永遠に屠ってやるつもりだ。  かかってこれるものなら、いつでもかかってこい!  細剣を握る手を強めた。力を入れ過ぎて、感覚が消えそうになっている。  ヴィンセントはどこまでも降りていった。どれほど時間が経過したのかも解らない程長い道のりだった。 「どうぞ」  ようやく案内した先に、流石の私も、予想がついていなかった。 「ここは、地下闘技場と呼ばれる場所でございます。ここで、『銀狼』達はオールドセイル家の為に、夥しい血を流しながら訓練してきたそうでございます」  その場所は、罠もない。至ってシンプルな場所だった。中央に四角の広い足場があるだけの、空洞だ。灯りは、削った壁に取り付けた蝋燭によるものだけ。それ以外に、道具も武器も・・・・・・何も見当たらない。  ヴィンセントに連れられて、その中心に立った。  弟は嘲笑の表情のまま、くるくると、ダンスを踊るかのような足取りで、回り出した。 「驚いたでしょう?私が貴方の背後から剣を突き刺すと思われましたか?まさか。誇りあるオールドセイル家の男子たるこの私が、卑怯な手を使うと、本気で思っていたのですか?」 「戯言を・・・・・・お前の本性は既に解っている。お前は筆舌に尽くしがたい程に卑怯者で、狡猾で、傲慢な、愚者だ。お前の企みを、僕は知っているぞ。お前は僕を、殺したいんだろう?だから、わざわざその決闘の場を用意したんじゃないか?」  ヴィンセントの顔から、感情が消えた。  作り笑いがすっと落ちて、次に歯が見えるまで、唇を吊り上げた。 「決闘の場ではありませんよ───────ここは、お前の墓場だ!!」  叫ぶと同時に、鞘から剣を抜いた。  その時を待っていた。私自身も、剣を抜き、純粋な殺意を露わにするヴィンセントと、対峙した。  ヴィンセントが地面を蹴ると同じタイミングで、私も駆け出した。  鋼と鋼がぶつかる音が反響して、聴覚を揺さぶった。ぶつかる瞬間に小さな火花が散って、剣を握る手に僅かな衝撃が走った。
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