60人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
考えられる予測は、多岐に渡っていて、それが私の警戒心を強めることとなった。
私はヴィンセントから、目を離せないでいた。離せなかったのだ。この、羊の皮を被った狼がいつ牙を剥いてくるのか、そのタイミングを圧し計らっていたのだ。
直ぐ様命を狙おうものなら、返り討ちにして、この闇の中に永遠に屠ってやるつもりだ。
かかってこれるものなら、いつでもかかってこい!
細剣を握る手を強めた。力を入れ過ぎて、感覚が消えそうになっている。
ヴィンセントはどこまでも降りていった。どれほど時間が経過したのかも解らない程長い道のりだった。
「どうぞ」
ようやく案内した先に、流石の私も、予想がついていなかった。
「ここは、地下闘技場と呼ばれる場所でございます。ここで、『銀狼』達はオールドセイル家の為に、夥しい血を流しながら訓練してきたそうでございます」
その場所は、罠もない。至ってシンプルな場所だった。中央に四角の広い足場があるだけの、空洞だ。灯りは、削った壁に取り付けた蝋燭によるものだけ。それ以外に、道具も武器も・・・・・・何も見当たらない。
ヴィンセントに連れられて、その中心に立った。
弟は嘲笑の表情のまま、くるくると、ダンスを踊るかのような足取りで、回り出した。
「驚いたでしょう?私が貴方の背後から剣を突き刺すと思われましたか?まさか。誇りあるオールドセイル家の男子たるこの私が、卑怯な手を使うと、本気で思っていたのですか?」
「戯言を・・・・・・お前の本性は既に解っている。お前は筆舌に尽くしがたい程に卑怯者で、狡猾で、傲慢な、愚者だ。お前の企みを、僕は知っているぞ。お前は僕を、殺したいんだろう?だから、わざわざその決闘の場を用意したんじゃないか?」
ヴィンセントの顔から、感情が消えた。
作り笑いがすっと落ちて、次に歯が見えるまで、唇を吊り上げた。
「決闘の場ではありませんよ───────ここは、お前の墓場だ!!」
叫ぶと同時に、鞘から剣を抜いた。
その時を待っていた。私自身も、剣を抜き、純粋な殺意を露わにするヴィンセントと、対峙した。
ヴィンセントが地面を蹴ると同じタイミングで、私も駆け出した。
鋼と鋼がぶつかる音が反響して、聴覚を揺さぶった。ぶつかる瞬間に小さな火花が散って、剣を握る手に僅かな衝撃が走った。
最初のコメントを投稿しよう!