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ヴィンセントも、相当にしぶとかった。肩を斬ってもまだ攻めを止めず、両足の大腿、肋骨下、左腕の肘、上腕部にも筋を入れたのに、速度を落とさない。
息が上がり始めて、苦しくなってきた。酸素が出血で、酸素補給が低下したようだ。
体力の限界の臨界点を察した私は、一気に片を付けることにした。
額に向かって、細剣を突いた。予想通り、ヴィンセントは顔を逸らして避けたが、辛うじて右目の上に新しい傷を負わすことが出来た。
首の頸動脈を狙った一撃を避けた後、額の血が右目の中に入り、一瞬視界に障害が起きたのを、私は止まったように見出した。
この瞬間を待っていた!!
足払いをかけ、体幹バランスを崩してやった。直ぐには起き上がれないよう、大腿部の傷の上から、右足で踏んでやった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
醜い悲鳴が劈いた。痛みでみっともなくのたうち回るその姿に、滑稽すぎて笑いがこぼれてしまった。
沸騰するかのように興奮した。ヴィンセントは動けない。動けたとしても、私の方が早い!!
「死ね──────────────────っ!!」
掴んだ勝機に、心臓目掛けて、剣の切っ先を突いた────────。
────筈なのに。どうしてか、あと少しのところで、ストップが掛かった。
身体がぴたりと止まってしまった。慌てて、両手で皮膚に食い込ませようと力を入れたが・・・・・・それ以上、剣は動かなかった。
何故!?何故!?何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故!?
早く!!早く、殺さねば!!ここしか、好機は無いのに!!ヴィンセントを屠るチャンスは──────。
────殺す?私が、ヴィンセントを、殺す?
どうしてだ?どうして、殺すことになったんだ?殺す必要があるのか?
殺さないといけない理由は・・・・・・何だったんだ?
だって、ヴィンセントは・・・・・・ヴィンセント・オールドセイルは、私の弟。
たった一人の、弟なんだ。どうして殺さないといけないんだ?
無理だ。無理に決まっている。だって・・・・・・だって、思い出したのだ!!
あの時、私とヴィンセントは───────。
震えながら剣を放した瞬間。胸に衝撃が走った。
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