とある名家の兄弟達

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 血まみれの服はいつの間にか着替えさせられていて、剣も元の位置に飾られている。  窓の外で、太陽と月が交代ずつで昇り沈みしていくのを、何度も目にした。  もう何回目かになるところで、真っ白になった思考の端の更に端に、一点の翳が出来た。  そういえば。  あの時・・・僕が、父上に直談判した時・・・・・・・・・・・・父は、是とも不是とも、答えていなかった。  父は、いつも冷たい人だった。兄上があんなにも、熱心に慕っていたのにも、父は兄に返答したことは、一度も無かった。  僕がフェンシング大会で優勝した時も、父は何も言ってくれなかった。バイオリンのコンサートだって。首席に選ばれた時だって。狙撃大会で優勝した時だって。一人で猪を狩った時だって。 ─────────────────あれ?  最後に話をしたのはいつだった?  最後に褒められた時はいつだった?  最後に抱き締められた時はいつだった?  最後にキスをしたのはいつだった?  最後に教会で一緒に祈ったのはいつだった?  最後に玩具をくれたのはいつだった?  最後に一緒にバイオリンをしてくれたのはいつだった?  最後に一緒に狩りに出かけたのはいつだった?  僕は───────────────何をもって、父上に愛されているのだと、思っていたのだろう?  疑問が泉のように溢れかえる。広がる疑心に、足元がぐらついた錯覚がして、心臓の上を強く握った。  控え目なノックが聴こえた。長年、この屋敷に仕えてきた、家令の老人だった。 「失礼致します・・・・・・ウィリアム様が、意識を戻されました」  ウィリアム・・・?  ウィリアム・・・・・・ああ、僕の兄上の名前だ。  意識が戻ったというのは、どういう意味だ?兄上が、重体の身だったというのか。  いや。僕は、何を言っているんだ。  あの時、兄上を殺したのは─────────僕だ。  ああ・・・・・・ああ・・・・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!  僕は、思い出した。  あの時、どうして兄上に一矢を報いることが出来たのか。  あの時・・・・・・隙を見せたのは、兄上だった。
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