小さな雛鳥と迷い猫

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「────ほう・・・」  一呼吸置かれて、かつん、かつんと沓を鳴らしながら、入って来た。  それが通り過ぎた後に、開いた扉がまた、閉じていく。  フードの下で、銀色の瞳を向けてくるユウを、涼やかな視線で受け止めたそれは、葉巻を片手に、口から濃煙を吐いた。 「・・・世人を騒がせる死神というのは、そなたのことか?」  優雅な雰囲気を纏い、まるで詩でも読んでいるかのような声音だった。  ユウの前に現われたのは、その雰囲気と遜色ない出で立ちの男であった。  その背丈はすらりと高い長身で、ユウの身長では首を折り曲げないと顔が見えないぐらいだ。纏っているのは真っ白な狩衣で、下には浅葱色の重ねを着て、足には沓を履いた格好だ。背筋をぴんと伸ばし、右手に葉巻を持って、煙に巻かれるその姿は、摩訶不思議な空気を纏っているように感じさせる。  その相貌も際立っており、白雪のような白い肌、薄い唇、通った鼻筋、涼やかな目元、小さめの黒い眉と、真っ直ぐに伸びた長い睫毛。絹のようにさらさらとした髪は灰色で、それを右肩から流して、毛先を髪紐で纏めている。  そして、ユウを高いところから見下ろす、その切れのある瞳は、両目とも金色だった。  まるで風に揺れる柳のような、つかみどころのない雰囲気に、ユウは訝しく目を細めた。  警戒しているとも見えて取れる視線に、男はどこが愉快なのか、口元を笑わせていた。 「目にした者全てを死へと導く神と同じ異名を持つというからに、いかに恐ろしげな姿なのかと恐々としておったが・・・なんてことはない。ただの童も同然ではあるまいか」  からかっている、と感じるには、その言葉使いは古風過ぎていて、ユウも、この男が自分のことを大したことはないと揶揄していることに気付くのに、少しだけ時間が掛かった。  葉巻を口に咥えて、口から深く白い息を吐くその仕草も、高潔さに溢れている。 「して、銀の瞳の死神とやら。そなたの名は何という?」  唐突に問うたその声に、ユウは銀色の瞳を剣呑に細めたまま、言い返した。 「てめえの方がなんだって言うんだよ?いきなり人のことをガキ呼ばわりしやがって。人の名を尋ねるときは先ず自分から名乗りやがれ。礼儀だろうが」  腕を組んで、瞳に眼光を宿して放つ時点で、ただの子供ではないのは明らかだ。
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