小さな雛鳥と迷い猫

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「・・・名には二種類ある。肉体という器に付けられた名と、誰にも付けられた訳でも無く、定められた魂に付けられた名。名というのは、肉体と魂をそれぞれ縛る呪言である」  首元の扇が、まるで刃の切っ先のように首に突き付けられて、ユウは至近距離にある切れ長の金の瞳の迫力に、呑み込まれた。 「私のような呪術師の中には、名を用いて人を呪殺する殺法を使う者もおる・・・・・・気を付けたまえよ。特に、そなたのような者はな」  涼風のような涼しい口ぶりで、さらりと言ってのける男であったが、自分が今、おちょくられたのだと気付いたユウは、むっと眉間を寄せた。 「名乗れって言ったのはてめえの方じゃねえか」 「問うたのは私だが、素直に答えたのはそなたである。無暗に真の名を吹聴しておると、痛い目見ることになるぞ」 「・・・・・・そうかい。よおく解ったぜ。てめえがクソ汚ねえ大人だってことがよ」  睨みながら、皮肉を持って返すユウを、ニリクはふ、と小さく笑った。  すっと、檜扇を引いて、また元の葉巻に戻して、燻り始めたニリクを、ユウはしばらく睨んだ。  そこへ、冷や冷やとしていたナペレが、ユウにこっそり耳打ちした。 「良いですか。この人は、私の古い友人であるのと同時に、大変高名な方なので。失礼のないようにしてくださいね」 「・・・だけど、俺、この依頼人の依頼、正直引き受けたくないんだが・・・」  ひそひそと小さな声で返してくるユウに、ナペレは腰を折り、くるりとユウの身体を反転させて、ニリクに向けて壁を作りながら、声を抑えた。 「あの方、ニリク殿は、その道では知らぬ者はいない程の、有名な方なのです」 「その道って?」 「術式専門家のことです。“呪い”のことに関しては、かなりのエキスパートなのですよ」 「はあ?あいつが・・・?」  ちらりと盗み見して、目元をにこっとするニリクを、訝しく示唆した。 「ユウ。あれほどの方の依頼ともなると、かなり高いランクの依頼になるでしょう。恐らくは、SSSランクと同等の」 「え~。ホントか?」 「ええ。間違いなく」  肯定するナペレに、ユウは更に怪訝した。 「話は済んだか?ナペレ」 「ええ・・・では、くれぐれも、よろしくお願いしますね」  最後にもう一度念を入れて、ナペレはユウの背を、ニリクへと軽く押した。
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