小さな雛鳥と迷い猫

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「では、参ろうか。ユウ・スウェンラ」  早速本名で呼ぶニリクが先に、くるりと踵を返して行って、ユウはその背を怪訝に睨んでいたが、遅れてその後を付いて行った。  扉が開いて、閉じた直後・・・一人取り残されたナペレは、ふうっと息を吐いた。 「・・・聞いておりましたね、ギル殿」  空間に向かって、ナペレは呼び出した。  すると、それまでナペレしかいないと思われていた部屋の隅から、すうっともう一人が、影のように姿を現した。  その人物へと、ナペレは身体ごと向き直って、呆れたように目を細めた。 「貴方も、難義ではありますね。まあ、自業自得と言えば、そうなんですが」 「・・・ナペレさん」  容赦なく、ずばっと率直に切り込んだナペレを、姿を消していたギルバートは、苦渋の表情を浮かべた。 「・・・それで、どうして、ニリクさんは今頃になって、ユウ様をお呼びされたのですか?」  ナペレからの痛い視線から逃げるように、話の矛先を逸らすと、ナペレも不可解な表情を浮かべた。 「さあ。ですが、あの人のことですから、何か厄介事に巻き込まれたのでしょう・・・大体検討は付きますがね」 「はあ・・・」 「まあとにかく。貴方も早く、ユウと仲直りしてくださいね。もうあれから何年経っているんです?」 「・・・・・・三年です」 「・・・呆れて物も言えませんね」  暗い声で返された答えに、ナペレはもっと呆れた。  が、直ぐに真剣なものへと、表情を変えた。 「何やら、嫌な予感は感じます・・・」  ユウへの依頼について、ナペレは詳細を聞いていない。事情は聴かないでくれ、と、頼まれたからだ。  ニリクは非常に聡明で、知に溢れている。また、その頭の切れも、老成も加わって更に磨きが掛かってきた。  そのニリクからの依頼なので、ナペレは、事の重大性を薄っすらと感じ取っていた。 「お願いしますね・・・ユウ」  出発して行ったユウへと、ナペレは小さく呟いたのであった。
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