小さな雛鳥と迷い猫

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******  数十分ぐらい前は、まだ人の密度が多かった筈の城の通路は、もう人気が一切感じられなくなっていた。  夜空に浮かぶ月の光によって、照らされる通路の真ん中を、ユウが後に、そして優雅な足取りで、葉巻を燻るニリクが先を歩いていた。  ふう・・・と、まるで風でも吹いているかのように、白い煙を吐き散らすニリクへと、その煙を鼻で吸ってしまったユウは、不機嫌そうに口を開いた。 「・・・歩き煙草はいけないことなんじゃねえのか?」 「ふむ。正論であるな」  後ろからの声に、ニリクはさらりと受け流したかと思うと、右手で火がついたままの葉巻を握り潰した。  掌を開くと、それは白い花弁に変わっていて、ふうっと一息吹くと、紙吹雪のように舞い散った。  様々な『能力者』を見てきたユウですら、目を丸くした。 ────何だ、あいつ・・・?マジシャンか何かか?  『能力』・・・にしては、何か違う気がする。  益々胡散臭い奴だな。  そう、心の中で、ニリクに対する印象が強めながらも、何も言わずに、黙ってその後を付いて行った。  検問まで差し掛かったが、黙って素通りするニリクとユウを、検問兵は見て見ぬふりをして、退城を許可した。 「さあ、乗るが良い」  城から出た後に、ニリクに促されたユウであったが・・・目の前にあるものを見て、目を点にした。  この国の交通手段は馬車か、まだ本格的に流通していないガソリン自動車のどちらかであるのだが、目の前のそれは、そのどれにも該当しないものだ。  箱のような形の車で、屋台が取りつけられ、簾によって仕切られていて、風通しが良さそうな造りだ。漆塗りされた軛は上等のもので、高級なものであることは解る。  だが、その内側は畳となっていて、四隅に蝋燭が立てられている。何といって目が一番つくのは、軛に繋がれた二頭の牛であった。 「・・・・・・これは?」  ユウが指を差しながら質問した直後、もう、という鳴き声が、二匹分上がった。 「私のような懐古主義の人間には、近代的な乗物は身体に合わぬ。何、見た目は古いが、中は快適だぞ」  無言で、中へと誘うニリクに、ユウは訝しい視線をたっぷりと送った後、最初に乗り込んでみた。  中は案外広く、あと二人ぐらいは入れるぐらいか。横になっても問題は無さそうな広さだ。
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