小さな雛鳥と迷い猫

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 あれほどゆったりと動いていた牛が、いきなり駆け足で疾走し出した。まるで闘牛のような勢いでだ。  人通りの少ない路地を、鼻息を荒げて走って行く。  かと思いきや、前足から地面より浮き始めて、まるで斜面をかけるように、空へと昇って行った。  思わず目をぎょっとさせていると、今度は車輪から火が噴いた。 「おわっ!?」  火の粉を避けながら、ユウは素っ頓狂な悲鳴を上げた。  次に、空中へと昇っていく牛が途端に燃えて、消えてなくなった。  引く力が無いのにも関わらずに、車は奔っていた。車輪が火炎太鼓のように燃え上がりながら。 「い・・・一体、どうなってんだ!?」  初めて見るものに、ユウは混乱を来たした。  九割が『能力』で満ち溢れているこの国に生まれてきたとはいえ、こんなもの、見たことすら無かった。  仰天するユウとは反対に、ニリクは涼やかな表情を維持している。  火の車は夜空を横断し、夜天を照らす月の下を、通り過ぎていく。  夜の時間に突入している下界を、ユウは空から不思議に眺めていた。  人が小さく見える・・・誰も、空を横断している自分達に、気付いていない様子だ。  興味深く眺めていると、真向かいのニリクが、檜扇をぱたん、と閉じた。 「ユウよ・・・・・・よく見ておくがいい」  直ぐに、そなたも目の当たりにすることとなる・・・。 ────襲撃者の正体を、な。  まるで物語を紡ぐように、流暢に紡いだ。  その直後。  王城から北東の方角。王都内から出ていない範囲へと、ユウは風に煽られながら、視線を向けた。  昔の形を維持した大邸が、そこに存在していた。建物はコの形をしており、その敷地は広く、だが、建物よりも庭の方の面積が広い。  庭師によって精巧に整えられた石庭と、鯉が跳ねる池が見え、島を橋が繋いでいる。また、夏椿が木の枝に花を咲かせていた。  滅多にお目にかかれない程に、綺麗な庭がある。  が。  それに目を配る余裕なんて、無かった。  何故なら、その大邸を囲う結界が、波紋のように揺れていたからだ。 「何だあれはっ!?」  銀色の瞳を縮小させて、ユウは驚愕の声を上げた。
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