小さな雛鳥と迷い猫

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 邸に向かって、巨大な結晶の氷柱が結界に向かって連弾されていた。  その発生源は見当たらず、文字通り、何もない空間から、発射されていた。  結界を只管に攻撃していた結晶の連弾が、接近してくる車に反応して、連射しながら矛先を変えた。  尾から攻めてくる攻撃に、火の車は空を疾走しながら、大きく旋回した。 「わっ!?」  遠心力で、窓から振り落とされようとしていたユウを、ニリクが襟首を掴んで、引き戻した。  追われながらも、車は結界の中へと、通り抜けて行き、広い庭のど真ん中へと半ば強引に着地した。  連射はまだ止まらない。風を切りながら、引っ切り無しに放たれ続けている。  車の内側で、ニリクはユウの襟首を掴みながら、外へと出た。  空へと、ニリクが睨眼すると同時に・・・・・・ぴたりと、止んだ。  痕跡も残さず、まるで何も無かったかのように、空気が静まり返る。けども、そこには不気味な余韻が残っていた。 「今のは・・・?」  猫のように宙づりにされていたユウは、ニリクと同じ方向を睨みながら、漏らした。  と、突然、ニリクの手がぱっと開いて、ぐしゃっと、ユウの身体が地面に落ちた。 「ふぎゃ!」  声を上げて、鼻を抑えながらユウは顔を上げて、直ぐ上にあるニリクの顔を恨めしそうに睨んだ。  が。次には違和感に気付いた。  空を見つめるニリクの横顔に、ユウは釘付けになった。  何食わぬ涼しい顔が・・・何か痛みを堪えているかのような、そんな寂しい顔になっていた。 ────寂しい・・・?  直感的にそう感じてしまった自分の勘性に、ユウは謎を抱いた。  顔を上げていたニリクが、すっと動いて、庭から邸の中へと入って行って、ユウも慌ててその後を追って入った。  畳が敷き詰められた、和風に凝られた家の中を半ば急ぎ足で渡るニリクの背中を、ユウも半ば駆け足になって、追っていく。  そして、何百もある部屋の内、硬く襖が閉じられた部屋の前で一時停止すると、ニリクは両手で、すぱっと開いた。 「リュウ・・・」  窓も硬く締められ、服や教科書が散乱する部屋の、真ん中でもっこりと山を作る褥へと、ニリクは遠慮なしに近付いて行った。  遅れて入ったユウは、部屋の中をぐるりと観察しながら足を踏み入れると、足元に硬い感触がして、目線を下にした。 「もう大丈夫だ」
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