小さな雛鳥と迷い猫

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 ニリクが優しい声音で語り掛けている間に、ユウは足を上げて、今自分が踏んでしまったそれへと、視線を向けた。  それは──────絵本だった。  懐かしい題目に、ユウは手で拾い上げた。  鳥と白い城の油絵が描かれたそれの名は・・・・・・『ことりとこおりのしろ』と、書かれてある。  その題目に目を通した後に、ユウはそれを端に置いて、目線を前へと戻した。  頭から布団を被って、亀のように引っ込んでいたのを、外へと引っ張り出すことに成功したニリクは、ユウへと向き直った。 「紹介しよう・・・・・・リュウ・ブリーズだ」  ニリクに両肩を置かれて、正面からユウと向き合う少年と、銀色の瞳がかち合った。  写真通りと寸分たがわない少年だった。短いざんばらな髪は木の葉の色で、健康的に焼けたその皮膚は、家の中よりも外で遊ぶ方が好きであると直ぐに解ってしまう。背丈はユウよりも若干高いぐらい。着ているシャツは大手の庶民向け服屋で売ってる量産品で、ニリクと並ぶとちぐはぐさが際立ってしまう。まだ幼い顔つきに、吊り上がり気味の三白眼は、ワインレッドの色をしていた。  紹介された少年を、ユウは無言で、爪先から頭のてっぺんまで、素早く見眺めた。やはりどんな角度から見ても、その辺の、平凡な少年にしか見えない。 「リュウや、紹介しよう。この者はユ」  さらっと、本名を晒そうとしたニリクを、ユウはわざとらしい咳払いで阻害して、ニリクを睨んだ。 「・・・・・・SSSランクの傭兵、『銀眼の死神』殿だ」  間を置いて、ニリクが訂正した後、ニリクの被後見人たる少年・・・リュウ・ブリーズは、ニリクを見上げた。  視線で問うリュウに、ニリクは切れ長の瞳を薄っすらと笑んで見せながら、答えた。 「今宵から彼の者が、そなたを守ってくれることになった・・・案ずるでない」  幼い子供に言って聞かせるような、優しい響きの声音に、リュウ・ブリーズは瞳を潤わせると、強く腕を回した。  身体が緊張で震えている小さな身体を、ニリクも軽く抱き締め返し、その背を規則正しく叩いた。  抱擁し合うその光景に、ユウは一瞬だけ、目を僅かに細めた後。くるりと踵を帰し始めた。  直ぐ様気付いたニリクが、リュウの手を引きながら、その後を追った。 「どこに行くつもりだ?」
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