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脱ぎ散らかしたブーツを履き出したユウへと、ニリクは背中から声を投げた。
紐をきつく結びながら、ユウはそれに答えた。
「・・・悪いが、依頼の話は無しだ」
きゅっと固定した後、立ち上がって、庭の真ん中より、ユウは後ろに振り向きながら、剣呑な声音で言った。
「俺には護衛は出来ねえ・・・そもそも、俺は必要ねえだろ?」
「ほう・・・その意味は?」
閉じた檜扇を翳しながら問うニリクに、ユウは睨むように見返した。
「そいつ・・・俺と同じSSSランクの、『瞬神』の弟なんだろ?そいつのバックには治安維持部隊がいる筈だ。それなのに俺に頼むなんざ、おかしな話と思わねえのか?」
写真を見ただけでは直ぐにぴん、と来なかったが、実際に会ってみて、ユウはようやく思い出した。
というのも、その少年の長兄たる人物から、必要でもないのに度々、しつこいぐらいに家族の写真を見せられてきたからだ。
他にも、もう一人の妹についても、顔だけは知っている。本当に不必要なのに。
国家部隊の総隊長の血縁者にも関わらずに、それを無視して、自分に頼んでくる時点で、何やら不穏なものを感じざるを得ない。
それに、あの襲撃に関してもそうだ。水面下で、何か大きな事が起ころうとしているように感じて、ままならない。
「俺なんかに頼むよりも、そいつの兄に頼んでおけ。治安維持部隊が総力で守ってくれるそうだぜ」
皮肉交じりにそう返して、車の脇目を通り過ぎて、ユウはそのまま去ろうとしていた。
していたの、だが。
不安な表情を浮かべるリュウを空いた手で制して、檜扇を広げると、口元を隠しながら、ニリクは口を開いた。
「そうか・・・・・・あの彼の悪名高き死神様が、尻尾を巻いて逃げる、というのだな?」
逃げる、の所を強調して、ニリクが発した途端。
ざく、ざくと砂利を踏んでいた足が、ぴたりと止まった。
「巷を騒がす恐れ多き死神殿も恐れ入って逃げだすこともあるんだなあ。どうやらその異名は名前だけの飾りであって、その中身はただの、ちびっこい、器の小さい、為りも小さい、子供に過ぎなかったか」
わざとらしい口調で、ひらひらと何かを言う度に、ぴく、ぴくと、ユウの身体が反応して。
最後に。檜扇で口元を隠し、明後日の方向に顔を向けながら、そのままの口調で、言い放った。
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