小さな雛鳥と迷い猫

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「今は出来ぬ。事が済むまで、もう少し待て」 「うん・・・でも、兄貴は良い?」 「ああ。ジンに声を聴かせてやれ」  震えがちのリュウに優しくそう言って返し、頭を撫でて、その背を送った。  寝室に戻って、兄に持たされた通信機を探しに行ったリュウを見送った後、ニリクはユウへと、くるりと向いた。  こちらに背を向ける小さな背中を見つめ・・・どこか寂し気なものを感じて、少しずつユウへと歩み寄った。 「如何した、ユウ・スウェンラ?」 「・・・あれから全然来ねえ。でも、嫌な予感しかしねえ・・・あれの正体が解らねえ以上、いつでも動けるようにしねえとな」  的外れな答えを返すユウに・・・無意識に話を逸らしたのだろうと、察したニリクは、口元を小さく笑わせて、隅に背中を凭れた。 「・・・ユウや。そなた、家族はどうした?」  葉巻の先を切り落とし、火を着ける工程の間に、ニリクは問うた。  口に咥えて、白い息を吐いた後に、ユウは眉間に皺を寄せながら、言い返した。 「・・・・・・それ、答えないといけないことなのか?」 「私はただ問うただけのこと。答える答えないは、そなたの自由よ」  ただ葉巻を燻ぶるだけだというのに、その所作自体に、優雅なものを感じさせる。  だが、ユウはそれに一瞥もくれず・・・胸の中に、わだかまりを感じながら、不機嫌に答えた。 「任務に関係ない事は喋らねえことにしてんだ」 「・・・ま、考えれば直ぐに解ることだ。幼い我が子をこんな世界に、喜んで見送る親など大抵はおらんだろうさ」  ふうっと、涼しく返したニリクを、ユウは忌々しく一睨みした。 「・・・・・・親がいるとかいないとか、てめえらには関係ねえだろ」 「ほう・・・ならば、親はおらんと言いたいのか?それはおかしな話だな。父と母無しで、お前はどうやって生まれ落ちた?」 「・・・・・・いねえよ。そんなもん」  冗談を吹聴するかのような口調のニリクにそう吐いて、ユウは手元に置いた絵本へと、目線を下げた。  懐かしいその題目は、小さい頃にとてもよく、親しみを感じたものだった。成長した今でも、見ずとも内容を覚えている。暗記するぐらいに、よく読んだ。  否・・・・・・読んでもらっていた。  大切に、籠の中に閉じ込もうとしていた、あの大人に・・・・・・。
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