小さな雛鳥と迷い猫

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****** 「・・・コネクト失敗。エラー1011」 「修復作業に入ります」 「メインコンピュータ損傷無し。他の損傷も見られません」  またもや内部から煙を漂わせるカプセルを、ガラス越しに見遥かせながら、連続で起こる不具合に、白衣を着た大人達の表情に焦燥の色が浮かんだ。  開いた蓋の隙間から、中で溜まっていた煙がもくもくと上がり、その中心部に数人の大人達が手を突っ込んで、その中に入らせていたものを除去する作業に入る。  人の形をした、黒焦げの物体を目視して、諦観した。 「やっぱり、他の検体では耐え切れません・・・」 「そもそも、この装置自体があまりにも危険すぎる。あの検体だからこそ、成り立つにすぎない」 「あの検体は他の子と比べて、ずっと特別だった・・・試作機は失敗だ」  口々に諦観を漏らすのは、十人以上いる研究者の集団の内、三分の一の割合だ。  もう中止にするべきだ、と暗に語るそれらの声を、他の三分の二が猛反対の声を上げる。 「ならば、あれの複製を作るまでだ!」 「この装置は完全無欠だ!失敗などと、あってはならない!」 「だったら他の『宝胎』を連れて来い!何遍だって、やってみせる!」  二つの意見がぶつかり合って、内部で喧噪が喚き合った。  そこへ、ぱんぱんと、手を叩く鋭い音によって、水を打ったかのように、たちまち静まり返った。 「・・・マザーの命令は絶対だ。間に合いませんでしたなどという報告を上げて見ろ・・・我々の行く末はどうなると思う?」  たった一人の言葉に、全員が途端に蒼白になって、互いに目を合わし始めた。  動揺する彼らに、その一人は、冷淡に続けた。 「・・・検体21121013を、再び稼働させる」 「ですが、検体は、もう限界です。このままだと、絶命する危険性が・・・」 「その時はその時だ。いいか?これは我々の命もかかっているんだ」  意見した者も、自分の命が危ういという事実を実感して、口を噤んだ。  そして、エラーコードを修復する作業と並行して、白衣の作業員が、とある場所へと向かった。  凍てつく冷気によって満ちる、地下の牢屋であった。 「出ろ」  鼻につく悪臭に顔を顰めながら、数多くある内の一つの檻を解放して、そこにいたのに命令した。
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