小さな雛鳥と迷い猫

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****** ────たすけて・・・・・・。  船を漕いでいた頭の中に、唐突に響いた微かな声によって、ユウはぱちっと瞼を開いた。 「たすけて・・・・・・?」  この依頼を引き受けてから・・・いや、その前夜から、うろ覚えに視ていた夢に、ユウは虫の報せのような、根拠の少ない予感に駆られていた。  予知夢・・・というには、あまりにも不明慮だ。  だけど、見逃してはならないと、直感が訴えている。 「・・・じいちゃん」  思考に耽っていると、屋根の下から声が聞こえて、目線を下に下げた。  すると、屋根の真下から庭へと、半袖と半ズボンの格好のリュウが出てきて、ユウを見上げた。 「じいちゃんは?」 「・・・・・・さあ。野暮用があるっていって、出て行・・・」  直後。ユウの直感に、何かが引っ掛かった。  息を呑みながら、上空を睨み上げる。  一点を睨むユウの様子に、リュウは不思議そうに首を傾げた。  が。鋭く細められた銀色の瞳に光を宿らせた後、ユウはリュウに目もくれずに、言った。 「・・・・・・逃げろ」 「え?」 「早く逃げろって言ったんだ!!」  鋭く言い放った直後に、それは実現した。  空の一点に、瑠璃色の光が差した。  次の瞬間。結晶の氷柱の連弾が現れて、結界の向こうにいるリュウへと攻撃を開始した。 「家の中に入れ!!」  庭のど真ん中で、腰をついて怯えるリュウへと、ユウはもう一度叫んだ。  がくがくと震えながら、涙目でリュウが邸の中に飛び込んでいったのを見送った後に、空を睨む。 ────本体はどこに・・・?  銀色の瞳を走らせて、第六感を働かせた。  敵の位置を探ろうと、索敵能力を張り巡らせる。が。 「いない・・・っ!?」  人の気配すら引っ掛からないことに、ユウは瞠目した。 「どうなってやがるっ!?」  結界への攻撃は、止む気配が感じられない。  比喩ではなく、文字通り何もない空間より、連弾が放たれていた。  撃ち込まれた箇所から衝撃が波紋のように広がって、結晶の氷柱は結界と接触した面から砕け散って、残滓も残らずに消えていく。  不可解すぎる現象に、ユウは動揺を顕わにした。  だが、それもまた、ぴたりと止んだ。  打って変わっての静寂に、ユウは握り汗を感じながら、感覚を極限に澄ませた。
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