小さな雛鳥と迷い猫

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******  静かなる車内の中で、ニリクはゆらりゆらりと、揺れに身を任せていた。  蝋燭の火が、風が吹いていないにも関わらずに、揺らめいている。  それは、切れ長の瞳に鋭い光を宿らせるニリクから発せられる覇気のせいだ。  車内の隙間から、夏の筈なのに、冷たい冷気の風が入り込んでくる。  もうすぐで目的地に着くという合図である。  かたん。と、車が止まったのを合図に、ニリクはすっと、車から降りた。  足下の感触は、雪。凍てつく寒気に、息が白くなる。  夏を裏切るかのような百銀の世界が広がっていた。まるで、ここだけ真冬のまま止まっているかのようだ。  外套も羽織らずに、冬の世界に降り立ったニリクは、くるりと身体を反転した。  王都より北の端に当たる方角へと、視線を向けた。  聳え立っていたのは、文字通り、全くそのままの、氷で出来た城であった。  何もかもが氷で作られており、幻想的なまでに美しい。それ自体が山のように、巨大で壮大すぎるぐらいの、建造物だった。  初めて見た者はきっと、その光景に、絵本の世界に迷い込んでしまったのではないかと、錯覚を起こしていたところであっただろう。  美しい建物に対して、ニリクは鋭い眼光で、見据えていた。 「・・・・・・待っておれ、魔女め」  小さく呟いた時のその瞳には、殺気に近いものが秘められていた。  そこへ向かって、ニリクは迷いなく、真っ直ぐ足を向けたのであった。
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