小さな雛鳥と迷い猫

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 じっくりと読み終えた後・・・・・・ユウは強い確信を抱いた。 ────ニリク・・・・・・。  脳裏に横切ったのは、空を見上げる、寂しい横顔だった。  もしかすると、ニリクは最初から、知っていたのかもしれない。  そう悟ると同時に、またもう一つの予感に駆られた。 ────あいつ・・・・・・死ぬつもりなのか?  だとしたら、あんな言い方なんてする筈が無い。  もっと早くに気付くべきだったと、ユウは奥歯を噛み締めた。  と、そこへ、機械混じりのジンの声が割り込んだ。 ≪今どこにいる?≫ 「えと・・・、東の森の中」  リュウが答えた後、間髪入れずに、ジンが返した。 ≪解った。なら、合流しよう。早急に向かう。それから後は、リュウは総本部の方で匿うよ。死神くん・・・・・・弟をお願い≫  最後の言葉は、悲痛さを帯びた声だった。  プツン、と切れた後に、気味の悪い静けさが降りた。 「・・・兄貴・・・・・・」  震えた声で、リュウはぽつりと漏らした。  膝を抱えて、蹲るように丸くなるリュウを一瞥して・・・一瞬だけ脳裏に横切った過去の記憶に、ユウは振り払うように舌打ちを鳴らした。  そんなことより・・・この状況をどうするか?  思考を張り巡らせていた途中で、上空から結晶が構築する音が微かに聞こえて、ユウはまた舌打ちを打った。 「考えている余裕はねえってか!!」  がしっと、リュウの襟首を掴むと同時に、無理矢理引っ張り上げて、別の方向に投げ捨てた。 「わっ!!」  直後。リュウが居た箇所に、巨大な結晶の氷柱が空から突き刺した。  役目を終えた結晶が粉々になり、空気と同化して消えたのを見て、ユウは銀色の瞳に鋭い光を宿らせた。 「・・・・・・お前、このまま一人で走れ」 「え・・・っ!?」 「ここは俺が請け負うっつってんだ。さっさと行け」  装飾銃を構え、空を睨み上げながら吐き捨てるように言うと、リュウの顔から血の気が下がった。 「ど、どうしてだよ!?このまま俺が死んでもいいのかよ!?俺を守るんじゃねえのか!?」  パニックになって、抗議の声を荒げるリュウへと、ユウは一瞥もくれずに言い捨てた。 「さっきの通信を聞いただろ。兄貴が直ぐそこまで迎えにくるってよ・・・・・・さっさと行け」
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