小さな雛鳥と迷い猫

58/94

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
 女は座からすっと立ち上がって、顎を開く霊符の龍を前にして、静かに佇んだ。  飲み込んだと思われた、その直前。何もない空間より宝石が現れて、巨大化し、女を守る盾となる。  ばさばさばさ!!と、激しい耳鳴りを、そよ風のように受け流す。  防がれたそれは二手に別れたが、凱旋し、女の頭上から滝のように直下した。  だが、内部より凄絶な波動が爆発して、薙ぎ払い、そして、自身を守るかのように、多数の宝石の盾を囲ませた。  直ぐ様、ニリクは印を組み、目をかっと見開いた。 「喝!!」  瞬間。百の霊符が一斉に爆発した。  盛大な爆音が轟いて、爆風が空間全土へと流出する。  その狭間で、濃厚に漂う煙の向こうを見据えていたニリクは、美しい顔を、剣呑に歪めた。 ────流石というべきか・・・・・・ただでは倒されてくれぬ相手であったか。  見据える先で、薄まった煙の向こうに、傷一つ無い状態で女が静止していた。  双眸に光が迸った後、懐から霊符を一枚取り出して、顔面に構える。 「破っ!!」  霊力を込めて投擲すると、霊符が弾丸のように飛来して、女へと直行した。  それを、盾となっている宝石の一つで防いだが、張り付いたと同時に、皹が入って、粉砕した。 「っ!」  閉じた瞼の顔が、一瞬だけ動揺した。  その隙を、ニリクは見逃さなかった。 「斬っ!!」  霊力を込めた霊符を横薙ぎにすると、霊力の刃が、女へと襲い掛かる。  直ぐに残りの宝石を盾にしようと構えるが、その前に、刃の隙を掻い潜って飛来した複数の霊符によって、粉砕された。  完全無防備となり、息を呑んだ、その直後。  霊力が女に直接ぶつかった。  顔面にもろに受けて、鋼色の髪を大きく振るいながら、顔から大きく後ろに仰け反り返る。  それを見て、手応えを感じたものの、ニリクは剣呑に目を細めたままだった。  それは的中した。  その美しい肢体が地面に打ち付けられる直前に、ガラスのように線が入り、音を立てて砕け散った。  動揺はしなかったものの、眉間を険しく寄せながら、地上へと視線を降ろした。  すると目線の先に、全く相違のない姿で、女が立っていた。  衣の両裾を大きく翻し、再び印を組もうとしたニリクであったが。  その前に、女が静かに手を翳して見せた。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加