小さな雛鳥と迷い猫

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 すうっと、広げた掌の上を漂う物体を見た瞬間────ニリクの眼が凍り付いた。 「それは・・・・・・」  我を忘れて、茫然として、それを見つめる。  女の手にあったのは──────ニリクと全くそっくりの色をした、片側の眼球だった。 「生まれ落ちた刹那に、一目で解った・・・・・・紛うことなく、貴方様の血を分けた唯一の子であると」  目をこれ以上なく見開いて、愕然とするニリクに、女は無機質な声音で、続けた。 「この娘は、生まれ出でし時より才覚を顕わにしました。全く性質が異なる魔力すらも容易に受容し、最大に引き出す身体の持ち主・・・・・・貴方様の血はやはり特別のよう。背の君」  その声には感情が込められておらず、まるで物語を読んでいるかのように、単調だ。  女の台詞に、言葉に、事実に、ニリクは縮小させた金の瞳を、酷く揺るがした。  眼球を見せ付けた後、女が鋭く息を吹きかけると、びゅんと空へ弧を描いた。  ニリクは思わず、駆け出した。地面へと落ちていく丸い物体へ、限界まで手を伸ばした。  が。次の瞬間、天井にぶら下がった氷柱たちが、ニリクと眼球の真上から落下した。  氷柱が直撃する寸前。鋭い氷の切っ先が、眼球を貫いたのを、ニリクは見た。  轟音が反響して、多重に木霊した。  余韻を残して、音が消えた後、女は静かに、閉じていた瞼を開いた。  そこにある筈の眼球は無く、抜き取られたように、空っぽだ。  だが。女の視線は真っ直ぐと・・・・・・氷の床に突き刺さった氷柱の隙間に、力もなく倒れたニリクへと向けられていた。  その後になって、門下の者達が慌てふためいて入って来て、現状を目にするや否や、驚愕した。 「・・・・・・それを地下牢へ・・・・・・娘と同じ場所に投げておきなさい」 「はい・・・マスター」  無機質な声音で命じる声に、門下達は逆らうことが出来ず、瞼を閉じるニリクの身体を持ち上げた。 ────その瞬間を、予知した者が、一人だけいた。 「っ!?」  カプセルの内部で、数多のコードに貫かれていた小さな身体が、この時になって、狂ったように身を捩り始めた。  声にならない悲鳴を上げて、今まで動くこともままならなかった身体を、大きく仰け反った。  直後。右目が瑠璃色の光に、輝き始めた。
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