小さな雛鳥と迷い猫

60/94

61人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
 それを合図に、ぼろぼろの身体から、瑠璃色の波動が爆発した。  凄絶な風が、カプセルの隙間から外へと流れこみ、大きな奔流を生じて、瞬く間に空間全土を煽らせた。  奔流が吹き荒れる最中、突然、カプセルが結晶に覆われ始め、波となって広がり始めた。  複数の悲鳴が上がり、動転した白衣の大人達が、我先にと逃げ出したが。  しかし、それから逃げられることなく・・・・・・結晶の一部となってしまった。  その影響は、別時点でも現れていた。  それまで、ユウと対峙していた結晶の鷹が、突然のたうち回り始めた。  ばさばさと、身体を大きく捩じりながら、苦しんでいるように暴れる鷹を見据えて、ユウは急停止した。 「何だっ!?」  フードの下で、銀色の瞳を見開きながら、凝視する。  苦しそうな鳴き声が夜空に響いた直後。ぱりん。と、線が入って、たちまち中心から粉々になった。  突拍子もなく唐突に起きた現象に、ユウは瞠目しながら、装飾銃を降ろした。 ────一体・・・。  不可解な謎を残して、自分から砕け散ったとも見れる行動に、ユウはしばらく呆然としていた。  しかし、空中で砕けた結晶の欠片が、ゆっくりと空から雪のように、落ちていくのを目で捉えた。  その内の一つが、自分の上から落ちてきて、掌を広げてそれを受け止めた。  掌にすっぽりと収まる大きさのそれを、目を丸くしながら見つめた。  その時。 ────たすけて・・・・・・。  唐突に、頭の中に、少女の声が響いた。  はっとして、周辺を見回すものの、気配は感じられず。  まさか・・・・・・と思い、ユウは今しがた手中の中に収めた結晶へと、視線を降ろした。  すると、色の無い結晶の中心が、瑠璃色の光を宿していた。 ────たすけて・・・・・・。  また聞こえた声に、ユウは気のせいではないと、確信を抱いた。  その声に、非常に強い既視感を抱いたが、時間を置かずに直感で解った。  ここ数日、毎夜のように夢に現われる・・・・・・助けを求める声だった。  逡巡したユウは、リュウが走って行った方向へと、視線を向けた。  森の向こうより、サイレンの音が聴こえる。治安維持部隊が到着したという合図だ。  ジンがリュウの身柄を確保したのだと確信して、ユウは瑠璃色の結晶を握りしめると、北の方角へと駆け出した。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

61人が本棚に入れています
本棚に追加