小さな雛鳥と迷い猫

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******  遥か後方で、戦いがなされている気配を感じながら、リュウは森の中を全力疾走していた。  灯りもとなく、整備のされていない獣道を、ただ逃げることだけを考えて、走っていた。  しかし、爪先が木の根につまずいて、体勢を崩した。 「わっ!!」  思いっきり転倒してしまい、痛みが全身に走って、リュウは転んだ体勢のまま、停止した。  反動が一気に押し寄せてきて、足が重く、呼吸も微かであり、咽喉も酷く焼けている。全身の穴という穴から汗が多量に分泌していて、リュウは身体が限界を迎えたことを察した。  走る気力も削がれて、うつ伏せになったまま、ひたすら呼吸を必死に繰り返していた。  しん、と静まり返った暗闇の中、荒い息だけが木霊した。  かと、思われた。 「────リュウ・ブリーズ」  自分じゃない声が上からいきなり落ちてきて、リュウは心臓ごと全身を跳ね上がらせた。 「わああああっ!!」  恐怖混じりの声を上げて、うつ伏せから起き上がって、地べたに腰を落とした。  暗闇の向こうで、闇を纏いながら仁王立ちする影に、恐怖で身体が震え始めた。  がたがた、と奥歯から鳴らし、声を出すこともままならないリュウへと、それは威圧的な声音を吐いた。 「怯えるな。私は敵じゃない・・・・・・私の名は、インドラ。『十二柱』が一人、巳門だ」 ────インドラ・・・?『十二柱』・・・?  心臓が激しく脈動しているせいで、声を拾うこともままならない状態であったが、どうしてかその二つの単語だけは、頭の中に焼き付いた。 「私はずっと、この機会を待っていた・・・時間がない。早急に話す」  そう吐くその言葉は、どこか駆け足になっているようにも聞こえる。  遠方より鳴り響くサイレンが森の中に反響する最中・・・・・・それは、恐慌するリュウへと、語り始めた。 「今から話すことは、生まれた時より授けられた本当の名・・・呪われた我らの、十二柱の宿命・・・そして、お前の本当の出生についてだ」  お前の本当の名前は────“シャンディラ”。  『十二柱』の一人、午門にして、風の化身。  それから・・・。 ────そこから先に語り継がれた全ての真実に、リュウは目を極限に見開いた。
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