小さな雛鳥と迷い猫

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******  全てが結晶によって封じられた空間。  その中心で、自らの力で自分を閉じ込めた少女は、闇の中で、血色を失った唇を震わせた。 「・・・・・・たす・・・・・・けて・・・・・・」  虫の息にも等しい微かな息で、そう紡いだ。 ******  民間人の眼を欺くように、肉眼で捉えきれない速さで、ユウは王都を抜け出した。  速度を落とすことなく、真北へと方角を固定して、どこまでも走り抜けた。  北へと向かうと、段々と気温も下がり始めた。  民家を抜けた向こう側に、境界線のような白い線がある。それは、そこだけ空間が切り取られたかのように降り落ちている雪のせいだ。  真夏だというのに裏切るような極寒の中を構わず走って、そして立ち止まった矢先に、頭上を見上げた。  東の方角より、山の際からひょっこりと、太陽が昇り始め、空が白くなっていく。  その光の恩恵を受け輝きながら存在を主張していたのは・・・壮大な氷の城だった。  そここそが、『四大ギルド』の氷山の一角である、北の大ギルド、『アイス・キャッスル』。マスターの名は、スプリング・ジュエルディー。『四大美女』の一人、『北の魔女』と呼ばれる女だ。  『アイス・キャッスル』は、『四大ギルド』の中でも最多勢を誇る傭兵ギルドであり、メンバーは『ジュエルディー』の七つの家系に連なる者のみ。  『ジュエルディー』自体、かなり数が多すぎていて、北の地域だけでなく、王都や他の三地域にも居を構えている。本来なら協定違反と言及されるのだが、この家系自体無害である為、暗黙の了解となっている。  寧ろ危険視するのはただ一人だけで充分・・・・・・その者こそ、ギルドマスターである北の魔女だけ。  師であり、ギルドマスターでもあるフローラは、魔女の名を聞いただけでも、険悪な反応を見せる程だ。  以前より、影で何やら良からぬ噂をユウも耳にしたことはあるが・・・今回の一件で、その理由をよく理解した。  とにかく。今は城の中にいるニリクを探し出すのが第一だ。  しかし、そこに問題が一つある・・・・・・入口が解らない。  それらしきものは見えるちゃあ見えるが、だがあまりにも高いところにあって、昇っていくにも、全てが氷で出来ているため、壁伝いには至難の業だ。 ────どうするか・・・。う~ん・・・。
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