小さな雛鳥と迷い猫

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「此度の襲撃自体、私を誘き寄せる罠だったのだ・・・・・・北の魔女によるもののな」 「っ!?・・・じゃあ何か?あんたは『アイス・キャッスル』と喧嘩でもしてるってことか?」 「いや・・・・・・ここのマスターと、個人的によるもの・・・でだな」 「・・・・・・あんた一体何をしたんだよ?」  胡乱げに目を細めるユウの表情には、大人の汚らしい事情など露も知らない、純粋無垢なものがあった。  それには、ニリクは答えなかった。 「ここを出るのは、娘を救出した後だ・・・・・・ユウ・スウェンラ。この私に、力を貸してくれないか?」  そう向けるニリクの言葉には、人をからかうような霞もつかめないものではなく・・・。  一人の人間として認めた信頼が、込められていた。  真摯に向けるその目に、ユウは一瞬瞳孔を丸くしたが・・・直ぐに気を引き締めた。 「しょうがねえなあ。その代わり、報酬は倍の値段だぞ」  ぶっきらぼうな子供の声に、ニリクは安堵したかのように、嘆息した。 「行くぞ。私について参れ」  すくっと立ち上がったニリクが先に地面を蹴り、その後をユウが駆け出した。 ******  氷の城の主だけが座ることが許されない座に腰を据えていた女には、この城に起こった全ての事柄を察知することが出来る。  例え、姿を消そうが気配を殺そうが、門下の眼は欺いても、女からは逃れない。  小さな鼠が侵入していることすらも、女の知る由だ。  それが地下の牢屋に閉じ込めていた愛しい男と合流し、移動した様子を把握した。  次に女は・・・・・・今現在、門下の者達がこぞって大騒ぎしている一点へと、意識を向けた。  研究所として宛がったその場所で、何やら不具合が生じたようだ。  最新の暗殺兵器の試作機が、突如謎の結晶によって、研究者ごと封印されたらしく。それの解除に今奔走しているようだ。  それらの様子が、女には手に取るように解る。  そして、その犯人も。 「・・・・・・全ては、愛しい“父”の為というのか・・・・・・吾子よ」  たった一人で、捨て身で守ろうとする我が娘の想いは・・・・・・女には届いていなかった。
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