小さな雛鳥と迷い猫

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 本物のように動く、その具現たる偶像を前にして、ニリクが漏らした。  度重なる修正不可能のエラーコードによる不具合のせいで、機械の一部にバグが生じて破損を起こし、それが検体から流れる巨大エネルギーを受けて、破損したまま大暴走を起こしたのだ。  嵐の風にも似た強い向かい風に耐えながら、ニリクは目を凝らえ、その中心のカプセル型の機械を、睨んだ。 「あの中に、娘が!!ユウ!!」  直ぐ隣で、自分と同じく耐えるユウへと、ニリクは叫んだ。  ニリクの言葉を受けて、それを見据えたユウは、銀色の瞳に光を宿すと同時に、嵐の中を駆け出した。  自ら特攻したユウは、距離を縮めると、右手にした装飾銃を眼前に構えた。 「よう・・・助けに来てやったぜ」  威嚇の声を上げる巨大な鷹に向かって、ユウは言葉を投げた。 「────謳え、『死型(DETH・SIZE)』!!」  凄絶な波動に対抗すべく、ユウもまた自らの波動を爆発させた。 「死の詠を奏でろ。生者は死へ、死者は生へと導く詠を。安らかな魂の輪へと送る鎌の一振りと共に」  詠唱を奏でると、右手に握った黒の装飾銃が、激しい振動を起こした。  銀色の渦が苛烈になって、瑠璃色の波動とぶつかった。  二つの性質の異なった波動の拮抗で、接触面から風が流れ出て、外まで流れていく。  その中心で、足底に力を入れ、吹っ飛ばされることだけは避けようと踏ん張っていたユウは、振動する装飾銃を向けるもの、風による激しい揺れによって、標準が定まらないでいた。  苦しい息を吐きながらも、規格外の波動を持って、対抗する。  五分五分の戦いから、少し離れたところで、向かい風によって激しく煽られていたニリクは、庇った腕の下から、前を見据えた。 「娘よ・・・」  激しい耳鳴りの中に、娘の叫び声が紛れて聴こえた。  今も。あの中で、激痛に苦しめれれているところだろう。  それでも、止めようとしないのは・・・・・・父(自分)の為。 「フェイルよ・・・フェイルよフェイル・・・・・・私はここにいる」  まだ見ぬ我が子の名を呼びながら、ニリクは足を前に踏み出した。 「私の声を聞け・・・」  一歩ずつ歩み寄りながら────その魂に与えられた名を、呼んだ。 「────ファルカスラ・・・」
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