小さな雛鳥と迷い猫

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 その作業にユウが没頭している間に、ニリクもまた起き上がって、身体を摩りながら、歩み寄った。  全てのコードを切り離し、ユウは肉の薄い肩を掴んで、揺り動かした。 「おい!!おい!!」  反応が無い・・・・・・そう思われていた。  微かに動いた身体から、生気が流れて。固く閉じられていた両の瞼が、ゆっくりとこじ開けられた。  右が瑠璃色、左が金の色をした双眸で、娘はユウを見た。  その金色の瞳は・・・・・・ニリクとそっくりだと、ユウは思った。 「フェイル・・・」  呼んだのはユウじゃない。  ふらふらとした足取りで近寄っていたニリクに気が付いて、ユウは譲った。  すると、直ぐ様、ニリクは飛びついて・・・・・・金色の瞳を、極限に見開いた。  息を呑み、自分と同じ目を持った少女を、凝視する。その身体は、僅かに震えていた。  娘もまた、色違いの瞳にニリクを映して・・・・・・目を見開いた。 「あ・・・・・・」  お互い、言葉が尽くせない状態だ。  感情だけが溢れかえっていて、言葉も無く、視線だけで通い合っていた。 「フェイル・・・・・・」  沈黙を、ニリクが破った。  誰も呼ぶことの無かったその名前に────検体21121013は、両目から涙を流した。 「・・・・・・ようやく、会えた・・・」  長い男の指が伸びて、検体の頬を撫でた。  直に伝わる熱と・・・・・・初めて貰う慈しみ深い感情が、肌を通して胸の中に流れ込んで来た。  わなわなと咽喉から震えて、ずっと言いたかった言葉が出て来なかった。  振り絞って言えたのは、たった一言。 「“父さま”・・・・・・──────」  涙の堰が壊れた。  今まで言われたことのない呼び名に、心が震えたのは、ニリクも同じだった。 「ああ・・・・・・ファルカスラ・・・・・・」  両目から涙を溢しながら、ニリクは愛おしい者へ送る笑みを、娘に向けた。  父性の本能に身を任せ、その身体の下に手を差し込んで、掻き抱いた。 「ファルカスラ・・・・・・フェイル・・・・・・愛しい娘・・・」  何度も、その耳元に、娘の名前を呼び続けた。  その肩に顔を埋めて、娘は絶え間なく涙を流し続ける。  念願の再会を果たしたその親子を、離れて見ていたユウは、無意識に逸らした。
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