小さな雛鳥と迷い猫

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────だが。それをずっと傍観していた、北の魔女は、火のように燃え上がった。 「我よりも、娘が大事だというのか・・・っ!!」  情を交わした妻より、一度も対面したことのない娘の愛が大きいなんてっ!!  燃え上がる激しい烈火に、細くて白い指を、色が無くなるまで強く握り締めた。  美しい顔が・・・怒りで醜く歪んだ。 「憎たらし・・・憎たらしい・・・っ!!」  夫にと決めていた男の心が振り向くことが無いと悟った怒りが込み上がり、爆発した。  その感情に当てがれて、城全体が、強い振動を起こした。 「今度は何だっ!?」  足場から地震のように強く揺らしてくる振動に、ユウは叫んだ。  ニリクも娘を抱きながら目を見開いて・・・その胸の中に納まっていた娘が、途端に小さく悲鳴を上げた。 「お母さま・・・」  その声は、恐怖の色がにじみ出ていた。 「逃げるぞ!!」  フェイルを肩に担いだニリクが叫んだのと同時に、一斉に地面を蹴った。  無人となった氷の城の中を疾走していたユウとニリクであったが、振動に翻弄されていた天井から、不吉な音が鳴り出した。  やがて、それは的中し・・・天井にぶら下がっていた無数の氷柱が、端からどんどん落下していった。  まるでドミノ倒しのような急速の速さで落ちていく氷柱を背後で感じ取りながら、二人は加速した。 「こっちだ!!」  途中からニリクが先に走り、その後をユウが追走した。  息つく暇もなく迫りくる凶刃に追われながら、出口を目指して駆け抜けた。  複雑な道を何度も回り・・・・・・そして、見えた。 「出口だ!!」  氷によって形作られた巨大な門を目にして、最後の加速に駆けた。  だが。その直前。必死に駆けていた二人の眼前に、氷の床から氷が伸びた。  急停止した二人の目の前で、それは大きく広がり、そして女の形へと形成すると同時に、すうっと忽ち、魔女へと姿を変えた。 「背の君・・・我を置いて、行くというのか・・・?」  無機質な女の声に、ニリクはぼろぼろの娘を抱きながら、鋭い口調で言い返した。 「娘は返してもらう・・・この子は、私のたった一人の子・・・宝だ」  娘を抱く腕に、無意識に力を入れる。締め付けるほどの強い力に、娘もまた、なけなしの力で応えた。  それが、魔女の嫉妬の炎に、油を注いだ。
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