小さな雛鳥と迷い猫

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「我のものにならんと拒むだけでなく、我のものまで奪うかっ!!」  感情の無かった声が、前触れもなく荒げた。  魔女の怒りが真っ向から向けられて、その覇気に当てられて、娘は怯えてニリクにしがみ付いた。  そこへ、ニリクと魔女の間に、ユウが割り込んだ。 「何奴・・・っ!?」  眼球の無い眼で睨眼する魔女に、ユウは殺気で輝く銀色の瞳で、対峙した。 「悪いが、こいつは俺の依頼人でな。ここで死なれたらタダ働きになっちまう・・・こいつに用があるなら、俺が相手になってやるぜ?」 「ユウ!」  直ぐ様、ニリクがユウに一声上げた。  ユウへと矛先を向けていた魔女は、怒りの形相を浮かべたまま、口を開いた。 「その出で立ちに、その瞳・・・・・・南の巫女の駒か?」  自分の口から出したその単語に反応しているようにも見える魔女に、ユウは好戦的に言い返した。 「だから何だコラ?『四大美女』だろうが何だろうが、俺の邪魔をするってんなら相手になってやるぜ?」  命知らずにも豪語を叩くユウに、ニリクは青褪めた。 「ユウ、それ以上挑発するでない!!死にたいのか!?」  声を荒げて咎めるニリクを、ユウは流した。  堂々と立ち向かってくるユウに対し、魔女は唇を異常に吊り上げた。 「愚者が・・・・・・我の首を取りたいのならば、取ってみせよ」  桃色の唇から、冷気が吐き出された。  直後。女の三方にまた氷が出現して、それは憲兵の形に作り上げられた。  無機質に命を吹き込まれた三体の氷の兵士が、長槍を持って、ユウに襲い掛かる。  ニリクを後ろに下げさせて、一体からの攻撃を避けると、直ぐ様死角から鋭い一突きが繰り出されて、紙一重に躱していく。  本物の人間のように動いて、怒涛の連携を前に、ユウは息をつく暇もない程、追い込まれた。  娘を抱えていたニリクは、彼らの矛先が向けられない様に、距離を計ろうとする、が。  足元に冷たいものが覆われる感触がして、視線を下に向けた。  すると、足に氷がまとわりついて、床に定着させていた。  力技で逃れようとするが。  そこへ、天井にぶら下がっていた氷柱が切り離され・・・・・・見上げるニリクへと、直下した。  鈍い音が積み重なり、ユウは注意を逸らした。 「ニリク!!」  避け様に叫びながら、氷柱の山へと呼び叫んだ。
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