小さな雛鳥と迷い猫

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 白い煙が漂う中、咄嗟に目を閉じていた娘は目を開いた。  うつ伏せに倒れていた身体を這って、床に突き刺さる氷柱の間に出来た僅かな隙間へと逃げ込んで・・・・・・そして後ろに振り向いた。 「父さま・・・・・・?」  腰にぺたっと座りこむ娘に・・・・・・庇ったニリクは、微笑みかけた。  辛うじて直撃は免れた様子であるが、掠った箇所から、赤い斑点が広がり始めていた。 「血が・・・っ!?」  小さく悲鳴を上げて、恐慌する娘に、ニリクは安心させるように微笑みながら、唇を動かした。 「フェイル・・・・・・ファルカスラ。よくお聴き。これから話すのは、我らが“ニリク”の運命(さだめ)・・・」  切り取られた空間の中で、まだ残っていた左目を見つめながら、ニリクは語り始めた。 「“ニリク”とは、さる霊獣を身に宿す一族の名だった。十三番目の神から始まり、代替わりしながら、今に至って来た」  親から子へ。その子からまたその子へ。そうやって、霊獣の力と魂を伝えてきた。  力と魂の根源は、その霊獣の真の名にある。  偉大な力を宿いし真の名を、たった一人だけが受け継ぐことができる。  親が死ねば、自動的にその血を分けた子へと・・・。 「もし、私が死ねば、次代の依り代はお前となる・・・・・・私の時もそうだった。私は母から受け継いだ。その次は、お前の番だ」  どうして、そんなことをこんな時になって、言い出したのか。  娘はその答えを、直感で悟った。 「いや・・・・・・いや!!はなれたくない!!」  静かに微笑む父に、娘はしがみ付いた。 「ふぇいる・・・ふぇいる、がんばってれんしゅうしたよ。きちんと、わかってもらえるように、じこしょうかい、れんしゅうしてきたよ・・・っ!!」  涙混じりに訴える娘を、ニリクは愛おしい瞳で見つめた。 「言わずとも解る・・・・・・お前は、私の母に瓜二つだ。間違う訳がなかろうか」  否・・・・・・ずっと前から、その存在に気付いていた。  いつからか、ふとした時に、声が聞こえていた。  たすけて・・・・・・という声を、ニリクはずっと前から気付いていたのだ。  だが、それを否定して、聞こえない振りを通していた。  我が子など、一生縁が無いと、諦めていた。  それが・・・・・・まさか、こんなにも多くの時が流れた、今となって・・・。
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