小さな雛鳥と迷い猫

6/94
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
******  ユウ・スウェンラの住まいは、ファイバランド共和国王都の南よりにある二つの山の、その内の一つの、山腹にある一軒家にある。  屋根の無い、四角形の、ビルと似た形をした、二階建ての中古物件。壁の色は鼠色で、ベランダ付き。地下も有り。山の中を散策すれば、漏れなく自然の栄養で育った価値の高い山菜も採れることになるだろう。現に、ユウもこの近場で、あのお目が高い野生の松茸を採取したことがあった。  こんな山奥に建っていなかったら、間違いなく良物件だったに違いない。そもそも、どうしてこんな所に建てたのか、建設者に強く疑問を抱かざるを得ない。  家の内部もまた広く、大所帯専用に作られていた。  リビング。ダイニングキッチン。入浴場。トイレ。洗面台。地下倉庫。客室四部屋。これが一階の間取りだ。  二階もあって、トイレと、五部屋の客室もある。どれぐらいの規模を想定しての設計なのか、甚だ疑問である。  その家に、ユウ・スウェンラは、たった一人で住んでいた。十歳の少年が住むには、不釣り合い過ぎた。  日暮れが過ぎた頃合いに、ユウ・スウェンラは家までの帰路である獣道を進んでいた。  黒装束をすっぽりと被り、フードを深く被って、顔を隠した格好で。その右手には、近くのパン屋で購入したBLTサンドと飲み物が入った袋が下げられている。  ざくざく、と、慣れた様子で真っ直ぐ突き進んでいく。木々と茂みを抜けた先が、我が家である。  ポケットから鍵を出し、鍵穴に刺して、常に閉めた状態にしている錠を開けた。  扉を開いた直後。つい、ただいまと言いそうになるが、返答する声が無いことが解っているので、静かに無言で帰宅した。  実に、十日ぶりの我が家だった。否、我が家というには、少し語弊があったかもしれない。ここに帰って来たところで、寝るぐらいが大半なのだからだ。  一年のほとんど家の管理を怠っていたにも関わらず、こうして清潔に保たれているのは、ひとえに、唯一出入りを許している人物のお陰だ。  黒装束を脱がずに、リビングへと入ったユウは、ダイニングテーブルの上にセットされた食器とおかずを先に目にして、次にキッチンを覗いて、炊き立てずみの炊飯器の中身と、小振りの鍋に作られた味噌汁とを目視で確認した。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!