小さな雛鳥と迷い猫

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 ニリクがしようとしていることに、魔女は・・・・・・嬉々の色を浮かばせた。 「我と共に、死んで頂けるのですか?」  愛を紡ぐように問う魔女に、ニリクは笑みを浮かべたまま答える。 「ああ。私がそなたに捧げることの出来る、たった一つの情だ」  ニリクの言葉に、魔女は歓喜に震え出して、逞しいその胸にしな垂れかかった。 「貴方様と共ならば、例え地獄でも、構いませぬ・・・・・・我が夫」 「そなたとならば、地獄に堕ちても悔いはない・・・・・・最後の妻よ」  最後の最後に、愛の言葉を捧げ合う振りをし合い・・・・・・これから訪れる終焉に、身を委ねた。  どうせ嘘なのだろうと看破しながらも・・・・・・ニリクの想いは、別に向けられていた。  リオル。コオル。エリフ。ドラグ。 ────ヒルナ。  済まぬ・・・・・・・・・・・・。  どうか・・・・・・子供達を、見守ってくれ・・・・・・─────。  それを最後に、静かに目を閉じて・・・・・・最後の引き金を引いた。 ────否。引こうとした。  正しく紙一重の瞬間に。巨大な衝撃波によって、扉が外からこじ開けられた。  打破するかのような轟音と、凄絶な波動を背中で感じて、ニリクは目を見開いて、背後を振り向いた。  昼の日差しの中に、月が輝いている。  いや、それは月ではなく・・・・・・月と同じ輝きを放っていたから、そう錯覚しただけだ。  黒装束に身を包んだ、月と同じ色の光を宿す眼。そして、その右手に握られた、死神の鎌と同じ読み名の黒の装飾銃。  その姿が────────一瞬だけ、全くそっくりの人物と重なった。 「ヨルミナ・・・・・・スウェンラ・・・・・・」  茫然としたその小さな呟きを拾ったものはいなかった。  満身創痍で茫然と自分を見つめるニリクに、ユウは叫んだ。 「ニリク──────────────────っ!!」  扉をこじ開けたユウは、ニリクへ疾走すると、その腕を掴んだ。  だが、ニリクはそれを振り解いた。 「何をしておるか!?この戯け!!」  怒号の声を上げるニリクに対して、ユウもぷつんと糸が切れた。 「戯けはお前の方だっつうの!!」  胸倉を鷲掴むと、ぐいっと引き寄せて、ユウは怒りを爆発させた。
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