小さな雛鳥と迷い猫

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「良い大人の癖して責任も持たずに逃げるつもりかゴラア!!人のこと散々説教たれておきながら、その様か!!俺はなあ、あんたみたいな責任をきちんと取ろうとしねえ大人が大嫌いだ!!死ぬんだったら果たしてから死にやがれ!!」  大の大人相手にも怯むこともなく、本心をぶつける小さな子供を前に、ニリクは目を丸くしていた。  その隙に、ユウはニリクを連れて逃げようとするが、眼前に巨大な結晶の山が出現して、阻んだ。 「・・・邪魔をする者は、許さない・・・・・・」  背後からの、憎悪にまみれたその呪詛に、ユウはニリクと共に振り向いた。  瞼は開かれ、北の美女と称された美しい顔に、ぴきっと縦に線が入っていた。  それから発せられる、闇に近い覇気を肌で感じ取って、ユウは一瞬だけ震えそうになった。  だが、先ず最初に空に向かって一発放ち、次に阻む結晶の壁を、衝撃波で打ち砕いた。  ぐわっと口を開いて、咆哮を上げようとした魔女。  であったが、その時、頭上より落下してくる衝撃波の雨に気付いた。  その次には、無数の衝撃波が魔女を取り囲むように落下して、ユウとニリクは外界へと逃げ込んだ。  新鮮な空気が肺の中に入って来て、崖から身を投じようと、地面を蹴る。  その直前。扉の内側から、銀の槍が飛来した。 「っ!?」  気付いた時には既に、ユウの眼前に迫って来ていた。  完全に反応が遅れたユウは、目を見開いた。  しかし────────衝撃はやってこなかった。  それは、寸前でユウの前に身を投げたニリクが、その身を持って矢を受けたからだ。 「ニリクっ!!」  空中で、ユウは真っ青になって叫んだ。  槍はニリクの胸を貫くと、塵となって霧散した。  投げ出した身体が宙を舞い、重力に従って下へと降下して、降り積もった雪の上に落ちた。  その傍らに着地したユウは、血の気を下がらせて、ニリクへと寄った。 「ニリクっ!!ニリクっ!!しっかりしろ!!」  胸の左側より血が滲み出て、ユウは更に白くなった。  そこへ、雪の上を這うように移動していた娘が、真っ青になって駆け付けた。 「父さま!!父さま!!お願い、ひとりにしないで!!」  硬く瞼を閉じる父に、娘はユウと共に、叫び続けた。 「父さま!!」 「ニリクっ!!」  だが、その目は、開かないままだった。
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