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主と別れ、十二人の家族とも別れ、幼き頃より共に過ごしてきた仲間も、既に心が離れている。
愛してきた妻達には、先逝かれるばかり。虚しさと孤独だけが、ニリクに纏わりつくものだった。
もうこの身は、多くの死を背負い続けてしまった。いつしか心のどこかで、死にたいと願うようになっていた。
生きることに・・・・・・疲れたのだ。
もう、楽になりたい。
長い生から、解き放たれたい。
「母上。私を・・・貴方と同じ場所に、連れて行ってください」
河の向こうから微笑む母へと、ニリクは待ちわびた想いをいっぱいに、手を伸ばした。
永久に続く苦しみから、逃れるために。
────いけませんよ、吾子。
その手は伸ばされたまま、拒絶された。
「母上・・・?」
目を見張りながら、ニリクは母を凝視した。
────お前には、まだやるべきことが残っているでしょう?ここに来るのは、未だ早すぎる。
「・・・まだ、生きろというのか・・・・・・貴方は・・・・・・あの現世で・・・・・・」
────その現世に、お前を心から必要とする者達がいるでしょう?
母の言葉が引き金に、ニリクの脳裏に、別の光景が横切った。
自分を必死に呼び叫ぶ、銀色の瞳を持って生まれた少年と・・・・・・そして。
────父さま!!
自分の血を受け継いだ、この世で唯一無二の、至宝。
母と全くそっくりの面差しを、受け継いだ愛し子だ。
「・・・・・・フェイル・・・・・・ユウ・・・・・・・・・・・・」
項垂れるニリクに、死の河の向こう側で、母は慈愛に溢れた笑みを浮かべたまま、その涼しい目元から涙を流した。
────さあ、お行きなさい。貴方に課せられた使命を果たす為。
全てを終わらせてから、こちら側に来なさい。その時は、母が迎えに行きましょう・・・。
「母上・・・」
────もし、ここでお前の名を呼んでしまえば、未練が生まれかねない・・・・・・だが。立派になった姿を目にできて、これ以上の喜びは無い。
生きなさい、吾子よ・・・・・・お前を大切としている者達の元へ・・・。
愛しい、吾子よ・・・・・・。
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