小さな雛鳥と迷い猫

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******  甲高い子供達の声に頭を揺らされて、ニリクは重たい瞼を開いた。  視界に、覗き込む子供達が揃って蒼白になっていたのが映ったが、しばらく思考が停止していた。  起こした身体はやけに軽く、穿った筈の傷はいつの間にか癒えていた。  血の広がった衣の上からその箇所を抑えると、掌から暖かい波動が感じ取れた。 「父さま・・・っ!!」  右腕にしがみつく声へと振り返る。すると、母そっくりの目から、涙が堰を切って流れていた。  ついに娘をも泣かせる日が来ようとは・・・・・・やれやれ、父になっても、悪い男のままだ。  自分を自嘲するような冗談を心の内だけに吐いて、純粋に見上げてくる我が子に対して、胸の内から熱い波が込み上がって来た。  その時になって、ニリクはそういえば、と思い出した。 「フェイル・・・・・・これを・・・・・・」  娘の前で両掌を広げて見せた。  数拍置いて、何も無いところから、ぽん!と煙が上がって、大きい物体が掌に乗った。  それは、真白い素材で出来た、大きなテディベアだった。  随分と昔に、王都の街並みを通り過ぎていた時に、偶然それを見つけて、衝動買いしたものだ。  待ちゆく人並みの中に、プレゼントのテディベアに喜ぶ幼い娘と、娘の喜び様に生きがいを滲み出していた父の光景を一瞥してから、無意識に移してしまった行動だ。  いつか・・・・・・いつか、まだ見ぬ娘に贈ろうと、胸の中に秘めていた。  垢一つも付いていない真白いそれに、娘は黒く汚れた指を伸ばした。  白いテディベアと、微笑する父と、涙が止まらない目で往復し、そして感極まって、父にしがみ付いた。  大声を上げて、泣き叫ぶ娘を、ニリクはしっかりと抱き返した。 「生まれてくれて・・・・・・ありがとうな・・・・・・」  涙が止まらない娘の耳元に、優しく囁いた。  それを、端で眺めていたユウは、安堵すると同時に、今まで堪えてきたものが一気に雪崩れ込んで来た。 「あ・・・・・・」  頭が石のように重くなって、全身に力が入らずに、雪の上に横倒しに倒れた。  重たくなっていく瞼を必死に維持しようとするもの、意思とは関係無しに身体は睡眠状態へと近付いて行った。 「ユウ・・・ユウ!!」  完全に意識が遠ざかる寸前になって、ニリク親子がようやく気付いたが・・・・・・為す術もなく、ユウは深い眠りへと就いた。
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