小さな雛鳥と迷い猫

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******  目が覚めた時には、三日三晩が過ぎていた。  南の大ギルド、『レッド・マウンテン』の医務室のベッドに仰向けになって寝ながら、ユウはぼうっとしながら天井を見つめた。  カーテンも何も仕切られていないベッドの傍らで、椅子に腰を下ろしていた人物が、くるりと椅子を回転させて、愉快そうにユウを見下ろした。 「この程度でぶっ倒れるとはな。SSSランクに上がっても半人前のままだなあ、チビん子」  最後のあだ名に、ユウは眉間をむっと寄せて、顔だけ振り向かせて、にやにやと見下ろすそれを、睨んだ。 「チビん子って言うんじゃねえって言ってるだろ。ルナ」  と、白衣を羽織って、普段は掛けない眼鏡を着ける、フローラの実妹・・・ルナ・スリーバーに対して、ユウは不機嫌そうに言い返した。  相変わらずの憎まれ口を叩く、弟分に、ルナは麗美な笑みを向けた。 「おやあ?この私にそんな口を叩くようになるとは、随分と偉くなったものじゃないか。誰のお陰で回復できたと思っているんだ?可愛げがもっと削られてしまったな・・・だけど、下はまだまだ可愛いままで、安心した」 「っ!?」  さらりと放った爆弾に、ユウは沸騰して、咄嗟にシーツの上から股間を抑えた。  ぎりぎり、と睨み上げるユウを、猫が威嚇しているようにしか見えていないルナは、さっと白衣のポケットから、一枚の文を取り出して、ユウに差し出した。 「お前の依頼人から、お前宛てにだ」  白い封筒を前に、ユウは目を瞬かせながら、それを受け取って、早速中を読んだ。  流暢で、まるで流れる水のような滑らかな美しい字が綴られてあった。  最初に謝罪から始まって、今回の騒動の原因と、被後見人が『アイス・キャッスル』のギルドマスターの命で命を狙われていた理由に続いた。  次に、ニリクがユウを選んだ理由と、その裏でこれまで貢献し続けたジン・ブリーズを使って、『ファルコン』の調査をしていた事実を、事細かく記載していた。  それから、娘への後悔と懺悔、贖罪の為にこれからは娘の為に生きていくという意思が書かれてあって。  最後に、感謝の言葉で締めくくられていた。  一通り読み終わったユウは、感動する訳でもなく、感涙した訳でもなく、無感量のまま、文を封筒に戻した。 「内蔵の機能が落ちていたようだったから、治しておいてやったぞ。感謝しろ」
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