小さな雛鳥と迷い猫

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 びしっと、玄関に向かって指を差すユウに、ニリクはまたもや言い返した。 「それがだなあ、ユウ・スウェンラ・・・・・・どっかの誰かさんが暴れてくれたおかげで、今まで住んでいた邸が全壊しておってだな。到底住めるような環境では無いなんだ」  やけにぐさぐさと突き刺してくるような言いぐさに、ユウはこめかみに青筋を浮かばせた。  今ここに得物があったのなら、間違いなく、その澄ました眉間に銃口を突き付けていたところだ。非常に残念だ。  わなわなと、右手の指を不自然に動かしていると、斜に構えたニリクが、涼しい口調で言い出した。 「それに、私達がここに身を寄せて、デメリットは無い。寧ろメリットだらけだぞ。そなたが留守の間は私達が守り手になるし。家の完備も怠るまい。ここのセキュリティーも我が術でしっかりと基盤を作っておこう・・・・・・と言っても、そなたにはあまり魅力は感じないだろうが、しかし、私の話を聴けば、そなたは私を受け入れることになるであろう」 「ほう・・・だったら、俺を説得してみろよ」  数段低くなった声音で、決闘を申し込まんとするユウの意気込みを前に・・・・・・それまで弧を描いていた切れ長の瞳が、すっと真顔になった。 「結論から言おう────────そなた、死ぬぞ」  唐突な言葉に、ユウは茫然とした。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」  真っ白になった思考で、唯一それだけ言葉を発すると、ニリクはその意味を説明した。 「『氣気』を構成する二大要素、『身体エネルギー』と『精神エネルギー』。これは、『能力』を駆使するに当たって、重要な役割を担っておる」  簡単に言うと、『身体エネルギー』とは栓であり、『精神エネルギー』とは操作装置。  『身体エネルギー』は消費量の調節を図るもの。『精神エネルギー』は、放出する『氣気』を操作するためのものだ。  人間には必ず、この二つのエネルギーがある。何故なら、それらは人間の身体に宿る生気から発生するものだからだ。この二つを極めた者こそが、Sランク級の『能力者』となれる。  が。その点において、本人すら自覚のない欠陥を、ニリクは看破していた。
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