小さな雛鳥と迷い猫

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「確かに、此度の一件は私の不祥事によるものであるが・・・・・・しかし、帰ってきたらこれなんだ。木っ端微塵になっておるではないか。財産も土地も全部。これでは到底住めないし、金も無いから家も探せぬ。およよよ・・・」 「・・・・・・でも、うちもそんな多く住めねえし。それに、ここは不便だぞ?喜んで住む奴なんかいねえし・・・・・・」 「なんとまあ、血も涙もない鬼の子なんだ。行く宛のない親子二人を門前払いするなどと、ああ、なんと無慈悲なことか。それならば仕方あるまい。親子で身を寄せ合い、寒さをどこかでしのぎながら路上に彷徨い続けよう。しかし、なんとああ、悲しきことか・・・」  わざとらしい仕草で嗚咽を上げながら、着物の裾で目の端を拭う振りだけするニリクに、ユウの顔の上半分に、重い翳が落ちた。  的確に核心をついてくる上、涙っぽく言われると、反論もしづらい上に・・・・・・・・・・・・・・・・・・妙に腹が立つ。  そこへ、端っこで見ていた娘が、裸足でぺたぺたと、しな垂れる父の元に駆け寄った。 「父さま。フェイルたち、ここに住めないのですか?」 「言うてはならん、我が娘や。こうなれば仕方なきこと・・・誰も恨んではならぬ。恨みたいのであるなら、この父を恨みなさい」 「フェイル、父さまのことうらみません。フェイル、父さまといっしょなら、どこでも大丈夫です」 「フェイル・・・っ。くっ・・・娘にこんなこと言わせるとは、なんと愚かな父であるか。すまぬなあ、全てはこの父の不徳が為したこと。不甲斐ない父で、お前に顔すら上げられん・・・そなたがよく出来た娘で本当に良かった。父も、お前さえおれば、例え火の中でも水の中でも構わぬ。だが・・・・・・ああ、やはり悲しいことには変わりない・・・」  ・・・・・・と、延々に続けられる涙声に、ユウは眉間に深い皺を刻んで。  観念したかのように、深い息を吐いた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好きにしろよ」  ユウの口からそんな言葉が吐かれたのと同時に、ニリクがぴくっと静止した。 「そこまで文句言うんだったらもういいよ・・・・・・ただし、条件だ。次の家が見つかるまで。それとこの家に住むからには、さっき言ってた要件を全部満たせよ。いいな?」  諦めまじりにそう伝えた途端、笑顔満点でニリクが立ち上がった。
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