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「任せておけ。このニリク。約束は違えぬ」
ころっと、顔を変えて、嘘のように明るくはきはきと宣うニリクに、ユウは純粋な殺意を抱いた。
「あとな、ニリク。これだけは言っておくが・・・この家に住まうからには、俺が家主だってことを忘れるなよ。今度またそんな口を叩きやがったら、追い出すだけじゃあすまさねえぞ」
銀色の瞳に苛烈な光を宿らせて、唸り声にも似た声を発するユウに、ニリクはひらひらと、風のように凪いだ。
「ニリクなどと、他人行儀で呼ばずとも。私には歴としたもう一つの名前がある。そちらの方で呼ぶが良い」
「はあ?」
「言うただろう。人には肉体の名と魂の名があると。私の名は──────」
口元を笑わせながら、魂に通じる名を紡ごうとした唇だったが。
すとん、と落ちて、そこから先を、紡がなかった。
「・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・いや。やはり何でもない」
「言いたいことがあるなら最後まで言えよ」
「いや・・・何も同じでなくても良いということだ」
何も無かったように受け流して、外に放置していた荷物を運びに行ったニリクの背中を、ユウは眉間いっぱいに寄せながら睨んでいた。が。
「────ユウ殿」
鈴が転がしたような声がして、そちらに視線を向けた。
そして、真白いテディベアを両腕いっぱいに抱えて、随分と様変わりした少女を改めて見て・・・・・・緊張した。
絹のようなさらさらとした、光沢のある黒い髪は美しく。小さな顔も、鼻筋の通った鼻も、薄い唇も、切れ長気味の瑠璃色と金色の二色の瞳も、透き通った白磁の肌も。
その白いワンピースに身を包んだ、華奢で頼りない肢体も。
全てが美しく、あんなに汚らしい恰好だったのが、嘘のようだった。
初めて垣間見てしまった、文字通りの美少女に、ユウは思わず自分の目を疑った。
「フェイルと申します・・・あの・・・今年、十一になります。不束者でございますが、どうぞ、よろしくお願いします」
ぬいぐるみに口元だけ埋めて、慣れていない様子で、ぎこちなく言ってくるところもまた、愛らしい。
その可愛らしさに当てられて、ユウも激情がすとんとそぎ落とされた。
首筋をこりこりと指先で掻きながら、ああ・・・と、端的に返すユウに、少女は満開の花を咲かせたのであった。
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