クローズド・サークル

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 わたしはクリスマスイブだというのに電車にゆられていた。  今年も彼氏にはイブに予定していたデートをキャンセルされてしまったのだ。いくら仕事が立て込んでいても、イブにまで仕事をしなくてもいいのにと思う。  わたしはある作家の別荘へと向かっていた。  わたしには、探偵というわけのわからない職業をしている知り合いがいる。  とにかくヘンテコな男で、わたしはたびたび迷惑を被ってきたのだが、そのくせ推理力だけは本物で、今までに数々の難事件を解決してきた名探偵だ。  わたしは、その探偵から作家の別荘で開かれるクリスマスパーティーに出席するように頼まれたのだ。  その作家というのは、内須川ナイスというミステリー作家でその業界では大家と呼ばれる人物だった。  その大家がどういうわけか探偵のことを耳にいれて、興味を持ったのか探偵のもとにクリスマスパーティーの招待状を送ってきたのだ。  人付き合いの悪い探偵はもちろん行くのを嫌がり、結局わたしが代理で行くことになった。  彼氏にデートをドタキャンされ暇だったのもあるが、何より内須川ナイスという名前を聞いて、わたしはすぐに行く気になった。わたしは内須川の小説のファンだった。  内須川の作品はいわゆる本格ミステリーと呼ばれるものがほとんどだった。不可解な謎と大胆なトリック、そして名探偵による謎解き。少し古臭くはあるが、その本格を求める姿勢はわたしを唸らせた。  その憧れの作家と聖夜に山奥の別荘に泊まるというのはなかなか面白いかもしれない。わたしはわくわくしてきた。  窓の外を覗くと雪がちらついていた。いつの間に降っていたのだろう?  山のほうは吹雪らしく、真っ白い雲がかぶさっているのがここからも見える。  別荘と推理作家、そして雪。なんだか事件でもおこりそうなシチュエーションだなと思う。  しかし、今日は探偵はこない。名探偵がいなければ事件もおこらないんじゃないかな、とわたしは思う。なんだかブラックジョークみたいでわたしは可笑しくなった。  名探偵が来なければ事件は起こらない。  わたしを乗せた列車は雪道を静かに進んで行った。
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