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《鏡界》を越えて交差する場所への転移はまぶたの裏に光を焼き付ける。
「朝陽でお目覚めってわけにはいかないよな。夢見ることさえ許されないとはな」
放り投げられる感覚の中、くらんだ目の調子を戻すために辺りにめぐらせた視線。
それが最初にとらえたのは人影だった。
「さあて始めるぜ。今さら後悔すんなよ」
彼と同じくこちら側に入って来たばかりの男の姿だ。受け身の後で得意気に立ち上がる男は、蔑みの妖笑を浮かべていた。
それが彼を短慮な行動に駆りたてるには充分だった。
この場がどんな領域なのかも確かめずに奇襲をかけるなど、命を投げ出すに等しいこと。それは分かっているのだが歯止めが聞かない。
相手が空間操作の能力者なのは、閉塞感を作り出す純白の景色を見れば明白。
周囲には白い霧が漂い、うねった雪柱がいくつも並んでいて、失われる平衡感覚。
これは幻影タイプの得意とする戦い方だ。
「本当に最高だよなここは。現代社会に生きる青少年たちのストレス解消場だせ」
男が見せた指先を上に突き上げる仕草。
「白き呪縛の墓標……《アイスピック》」
楽しむような弾んだ声の後に、辺りには雪柱がいくつも立ち上った。
彼は回避を優先する。両手を広げながらのそれは、おぼつかない下手なダンスに見えた。
雪柱は次々に繋がり、半径数百メートルにまでに及んでいる風景は、吹雪舞う中で見るアラスカの氷山のようだ。
「学校に不満を感じてるのか、お前?」
「まあな。今日も先生に自慢の髪型を注意された。ったくハゲオヤジは髪をいじれねぇからひがむしか能がないんだな」
辺りの柱は少年の感情に呼応するようにうごめく。加えて距離感がつかめない。
寄りかかるために手を伸ばした先の雪柱が、実はそこにはなかったという具合だ。
対峙する相手を感じ取るためには、己の身で触れに行くしかない。
「所で気付いてないわけじゃないだろ。ここは俺の空間だ」
「それがどうした?」
彼が初めて聞いた相手の声は、少年というには少し大人びた響きがあった。
しかし、思い込みではあったがその言葉の稚拙さから、彼は相手が自分と近い年齢であると信じた。
そして彼は安堵する。
闘いというものは、場数の差がものを言う。そう信じていたからだ。相手が若いとなれば自分自身にも勝機はあると。
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