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「なんてね。先輩、馬鹿でしょ? 見返りも知らないで闘ってんだから」
「悪いかよ」
「まあいいよ。アダムの座は俺がもらうぜ! あんたは俺の踏み台になりな」
ののしられたことで怒りによる上気を感じたが、辺りを包む空気の冷たさが尋常ではなく、直ぐ様身体が凍てつく。
制服の襟もとを閉めてみるのだが大して防寒にはならない。
気が付けば周囲に築かれていた雪柱の数が増している。
先ほど感じていたうねりに加えて圧迫感も襲って来るようになった。
「思ったより厄介だな」
うねりのせいで相手との距離が分からないのと、寒さで反射神経が鈍っていく焦り。
彼は徐々に冷静さを失っていった。
「領域や空間操作を知らないとこうなるんだぜ。次に戦う時は覚えときな」
ここが好機だと悟った少年は、白い霧に紛れ彼の背後にまわり込む。
首に突き立てたバタフライナイフが一閃を描こうとした時だ。
「お前もな」
彼はプラスチックバットを地に叩きつける。するとまさかの金属音が鳴った。
刹那。周囲に切り立っていた雪柱が雪崩を起こし、全てを飲み込む勢いで動く。それはまるで生き物のようだ。
手にした武器は確かな硬質を抱いていたのだ。それが雪柱に切り目を入れていたと、少年は気付けなかったわけだ。
先ほどの少年の姿はもう見られない。己の技で反撃をされるとは思わなかったことだろう。
「無敗記録更新っと。後はぐっすり眠りな」
戦闘の継続が不可能と踏んだ彼は、ひと息ついた後で《鏡界》の出口に向かって歩き出した。
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