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夜の色が太陽を少しずつ抱き、地平線の向こうへと眠りをさそっていた頃。月が満面の笑みで顔を出している。
そして東の方にアルタイルが見えていた。
夏の夜は露出度の高い服装で出歩く機会が多い。夜道は危険がともなうものだ。
警戒が必要だが彼女の場合はもうひとつ、違う意味での警戒線を張らなければならないだろう。
「見えなくてもいいものが見えると煩わしさが倍だね」
住宅地の狭い路地を歩いていた彼女は何者かに進路をふさがれる。
それを両目で捕えると、ため息をひとつ。白い手で長い黒髪をまとめた後、ヘアゴムでしばってテールを作り出した。
これは彼女が戦闘態勢に入った証拠である。
「感じ取ったな。俺の感情を」
「後ろから襲わなかったってことは、真面目の意味でとらえていいんだよね。やるの?」
「ああ」
最初はタチの悪いストーカーかと思っていたが、正面を切って来たとなれば別の可能性を考えなければならなかった。
目の前の男もまた、《鏡界》に干渉出来る存在なのだから。
「俺と組む気なら手はひいてやる。選ばれるのは男女2人組だっていうだろ」
男はダンスに誘うような仕草で彼女をエスコートしようとした。
しかし彼女は、茶色ががった瞳に呆れの色を浮かべ、さも興味なさげにため息をこぼす。
「お断り」
「可愛くねえ女だ」
言い終えるや否や。激しい気流の波が押し寄せた。暴風が吹きすさぶ中、両者はこの場から転移した。
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