名前の理由

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「……俺は、違うよ。」 そうかもしれない、 とは思った。 しかし、その思いは胸を 支配することはなかった。 親が俺に話しかけるときの 目が浮かぶ。 俺はその目が大嫌いだった。 だから、どうしても否定の 気持ちが首をもたげて、 認められない。 「どうして?あたし、  おひさまも、  日向も大好きだよ!」 優香は不思議そうに 首をかしげる。 俺は、素直に認められない 自分が嫌になった。  屈託のない笑顔で 笑いかけてくる、 優香が眩しくて。  簡単に 「日向が好きだ」 と言える、 優香が羨ましくて。  俺は少し泣きそうになった。 こんな俺でも、変われるかな? 君のように、自信を持てるかな? バカみたいに、 素直になれるかな?  そう言おうと思ったが、 すんでのところで 飲み込んでしまった。 飲み込んだ言葉は、 針のように心に刺さって、 ずきずきと痛い。 また、素直になれなかった。 そんな自責の念が、 心を押しつぶそうとする。 こんな自分は嫌だ。 "変わりたい"。 思いは、決意に変わった。 空を見上げて思いっきり 息を吸う。 変わってみせる。 絶対に。 「変われるよ、日向なら!」 優香の、そう言って笑った顔と、 青い夏の空が、 俺の背中を 押してくれている気がした。 今なら、変われると思った。
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