第1章

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 また、あの音だ。  白い布団の中で体を縮こまらせつつ僕は、遠くから近づいてくる音に耳を傾けた。  その足音はいつも、二時きっかりに家の前を遅すぎも速すぎもしない速度で静かに通り過ぎていく。  足音の数はひとつではなく、幾つも重なって聞こえてくる。  気のせいか、それらの数はここ数日で幾らか大きく膨れ上がったように感じる。  ただの気のせいかもしれないけれど。  音が間近に近づいてくる度、僕はあまり息をしないように注意する。  息の微かな音でさえも、奴らに聞こえてしまうような気がするからだ。  足音が僕の家の前に差し掛かった。この瞬間が、最も緊張する瞬間だ。  僕は、この時間が早く過ぎ去ってしまうよう心の中で強く念じる。  だが、こういう時に限って時間はひどくゆっくりと流れる。  僕はその数秒間を何時間もの長さに感じた。  もし、時間の流れを操作できるリモコンがあったなら、そのボタンを迷わず連打することだろう。  布団の中から、目玉だけを動かして窓の方を見た。  カーテンはしっかり閉まっている。  だが、そこから覗いてみようなんて馬鹿な真似はしない。  もし覗きなどして、今外を歩いている連中に見つかったら、今度連れていかれるのは僕ということになる。  僕は足音の主の姿を一度も見たことがない。
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