第1章

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 いや、僕だけでなく姿を見たことのある子供なんて、おそらくこの町に一人もいはしないだろう。  奴らに気づかれずにこっそりと覗き見るなんてことは、絶対に不可能なのだから。   それに、それが無理だということをみんな知っている。  僕は、互いに響き合っている足音が行き過ぎるのを、ひたすら待った。  もしそれらの足音が自分の家の前で止まったら、僕の心臓もそれと同時に止まってしまうことだろう。  もう僕は、息をするのを完全にやめていた。  肺の中に思い切り溜めた空気がいつまでもつか分からなかった。  足音は行き過ぎた。  胸の中で心臓がほっと息をつくのが分かった。    足音は重い反響音を残して遠くへと去っていき、やがて完全に聞こえなくなった。  固まっていた身体の緊張を解いた。  解いたつもりだった。  だが、解けたのは表面的な緊張だけで、手や足先の方まで細い枝を伸ばしている神経は、足音が聞こえなくなってからも長いこと強張ったままだった。  けれどそれは、いつものことではある。  僕は、手や足をゆっくりと自分でマッサージしながら考えた。
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